病気の一枚　10

いよいよ、やってきた。

抗がん剤治療終了後の採血、エコー、レントゲン、ＣＴ（造影剤込）の結果発表の日である。何度も思うが、検査結果を待っている間というのは、合格発表を待っているようで、落ち着かない。

２０１９年夏、右胸のしこりに激痛がはしり、検査の結果、乳がん、悪性腫瘍と診断されて、１１月に右胸全摘とガンが転移していた右脇下のリンパ節切除手術を受けた。そして１２月から抗がん剤治療が始まり、翌年５月にやっと抗がん剤治療が終わった。そしてその後の検査を受けていた。

今日の結果に何か異常値があったら、どうするのだろう？また何か治療を受けなければならないのだろうか？薬を飲まなければならないのだろうか？昨夜は何度も目を覚ましていた。この緊張感は何度味わっても嫌だなあ・・・。

あ、お疲れさまでした～！

診察室に入るなり、主治医の先生がいつもの調子でニコニコしながらそう言った。そして、私の検査時の撮影物を次々と画面に映しながら、結果を説明していく。どうでもいいけど、先生、相変わらず説明が早口で追い着けないってば・・・。

結論。どの検査も異常なし！やったー！よかったー！わーい！という感動に浸る間もなく、「じゃ、ポート抜去はいつにする？ホルモン療法の薬の説明はいつにしようか？」と笑顔で矢継ぎ早に先生から畳みかけられ、そっか、まだ終わりじゃなかった・・・と、秒速で現実に戻された。

診察が終わったあと、薬剤師さんからホルモン療法に使う薬の説明を受けた。ものすごく丁寧で分かりやすい説明だった。でも副作用はやっぱり出るかもしれないのね。そうだよね。ホルモン療法については、また次の機会にでも。
そして、引き続き、抗がん剤投与のために埋め込まれていたポートを抜く手術の説明を看護師さんから受けて、その日は帰宅。

人生で初めての日帰り手術。

ただでさえ、緊張しているのに、季節はちょうど梅雨ど真ん中。大雨が降ると、あちこちの道路がすぐ冠水する。果たして、私はまず病院までたどり着けるのだろうか？天気予報とにらめっこしながら、旦那と家族会議を開いた結果、念には念を入れて、前日から病院近くのビジネスホテルに泊まることにした。

そして迎えたポート抜去手術当日。天気はどんより曇り。雨が降っていない今のうちに病院へ移動、待機。しばらくして、呼ばれて、看護師さんと手術室へ。前室で手術着に着替えたあと、手術室へ。

手術室の看護師さんが私に話しかけながら、手術の準備。一人でてきぱきと手術の準備を進めている。すごいなあと感心していたら、手の甲に点滴の針をセットされた・・・。針嫌いの私はそこから一気にテンションが下がり、緊張も高まり、そこへ先生が音もなく登場。

「先生～、部分麻酔の前に、私を一回気絶させた方がいいかも～」と超弱気なことを真剣な顔で言ったら、「なに言ってんの～。そんなことしなくても大丈夫！麻酔打つときがちょっと痛いだけだから～」いや、だからその麻酔打つ時の痛みが・・・などとわーわー言ってる間に麻酔を打たれた。痛い！！

手術なう。

手術が始まった。私がめっちゃ緊張していたので、先生はたわいもない話で気を紛らわそうとしてくれている。が、このまな板の上の鯉状態で、会話についていくのはかなりの労力を要し、はたから見たら、本当に鯉のように口をパクパクさせていたに違いない。

それにしてもそんなたわいもない話をしながら、先生も看護師さんも手際のいいこと。ま、当たり前なのかもしれないが、素晴らしい。おそらく時間にして１０分ぐらいで、私のポート抜去手術は終わり、先生は「じゃ、また外来でね～」と言い残し、次の手術へと去っていった。

手術は無事に終わり、別室に移動して止血するまでベッドで休む。たいていの人はここで止血確認をしたら、帰宅するらしいのだが、私は止血したものの痛みが強く続いた。なので、それから２，３時間ベッドで休ませてもらい、雨がまた止んでいる隙にホテルへ戻った。そう、手術当日は運転して帰る自信がなかったので、もう一泊することにしていたのだ。
翌日、痛みもかなりなくなり、天気も晴れて、無事に帰宅することができた。

撮った。

帰宅してから、とにかく天気がいいので、息つく間もなく、何はともあれ、ひたすら洗濯をした。手術痕がちょっとズキっとするけど、そんなこと言ってられない。この晴れ間を逃してなるものか～。

一息ついたのは、もうお昼ご飯を食べる頃だった。いっきに緊張から解放されてぼーっとしていたので、とにかくご飯を食べて薬を飲んで、そのままうたた寝してしまった・・・。

その日の夕食。治療がひと区切りついたからと、ご褒美外食に連れていってもらった　ガン治療が始まる前にも連れていってもらった近所の店だ。食事制限が解除されたので、とにかくお刺身は外せなかった。後は焼鳥、天ぷらなど、ここぞとばかりに食べて、〆は釜揚げうどん。シンプルだけど、ほっとする。半年ぶりのお刺身も美味しかったけど、なんだか釜揚げうどんが身にしみたのであった。

次はホルモン療法に入ります。

追伸：病気の一枚は連載モノです。よかったら９もご覧ください。