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【感想】川上未映子「黄色い家」正当化しないと生きていけない

もしも自分だったら、彼女の境遇を乗り越えられただろうか。

花が黄美子さんと出会ったのは15歳の中学生の時。近所のスナックで働く母親は、店の人や友達を連れて帰ってきて泊まらせることがあった。黄美子さんもその一人だった。高校生になった花は家を出て、再会を果たした黄美子さんとスナックを始める。そこに同年代の蘭と桃子も加わり4人での暮らしをスタートさせ、人生が軌道に乗り出したと思った矢先、とある出来事をきっかけにスナックを経営できなくなり、花たちの生活はいとも簡単に崩れていく。そしてスナックを失った花は、4人での暮らしを守るため詐欺に手を染めることに。

「黄色い家」は花たちが10代を生きた1990〜2000年代を中心に描かれている。ちょうどバブルが崩壊した後の日本。明るかった世の中が暗い方へ進み出してから20年、多くの人たちの生活は豊かになったのだろうか?読みながらぼんやりと考えるのはそんなことだった。ただ直向きに仕事に取り組んでいるだけなのに、ちょっとしたことをキッカケにして転がるように人生が狂い出す。別に自業自得でなければ、何も悪いこともしていないのに。そんな人が増えてきているような気もする。

数年前までアルバイトを始めて自分の力で稼ぐことで喜びを感じていた花が、みんなでの暮らしを守るために詐欺をするようになるという変化に、現実の世界でもいるはずの残された道が無く罪を犯してしまった人のことを想像せずにはいられなかった。「正しくないよ、そりゃ正しくはないけど、でも間違ってるわけじゃない。」そんな花の言葉に、罪を犯す自分を正当化しないと生きていけない人の気持ちに直面したように気になりハッとさせられる。

コロナ禍によって職を失った人、物価と税金だけが上がりじわじわと生活が苦しくなってく人、小さな1つ選択を誤っただけで、人生が転落していきそうな今の世の中で、超えてはいけない一線のギリギリの場所で耐えている人もきっといるのかもしれない。「若者がバカをしている」とか、自分とは別の世界に住む人のように罪を犯した人たちを眺めていても、何も見えてこない。全く犯罪者を擁護するつもりはないが、なぜ彼ら彼女たちがそこに辿り着くことになったのか、社会の中に隠れているであろう要素を探し出そうと少しくらい考えてみてもいいのかもしれない。


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