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【読書感想】『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』ファン・ボルム

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「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」は、悩みながらも行動することで人生を少しでも良い方向へと動かしていくことを優しく語りかけてくれる。

主人公のヨンジュは、会社員として働き、結婚して体調の問題で退職そして離婚。そして夢だった書店を始める。そんな彼女の夢だった「ヒュナム洞書店」に集まる人たちを描いている。ヨンジュをはじめとする登場人物は、それぞれの人生で負ってきた何かしらを抱えながら、書店を通じた出会いやキッカケによってほんの少し前へと進んでいくような物語。


全体の印象としてはとても温かく優しい物語だったと思う。それと同時に、単なる心温まるだけの小説ではないという印象が残った。それは、人生に変化を起こしたり、苦しい環境から抜け出すためには必ず行動が伴うことを伝えているからだと感じた。

その行動力こそ登場人物たちに共通している特徴の一つだった。例えば、たった一人でゼロから書店を始めたような主人公のヨンジュ。先に述べた通り彼女は、それなりの波乱を経験している。そして書店を始めた後も、SNSでの発信やイベントを積極的に仕掛けて書店を拡大させていく姿が描かれている。

行動を起こせば人生に変化が訪れるなんてことは、誰もが分かっていることだが、具体的かつ効果的な行動を起こすのは思っているより難しい。
人生のどん底に突き落とされ、簡単なことも自分の頭で考えられなくなることだってあると思う。そんな状態にあって、傷が完全に癒える前から立ち上がり、一歩でもいいから歩を進めなければいけないと思った。

本作で特に印象的だった人物が、兼業作家のスンウだった。彼は、中学生の時からの夢を叶えてソフトウェア開発者になるも、猛烈な仕事のやり方によって突然プログラミングをやめてしまう。その後、韓国語に没頭し、ブログをきっかけに本を出版し、ヒュナム洞書店でもイベントを行うようになった人物。

そんなスンウに感情移入できたのは、彼の半生にある一定の共感があったからだと思う。自分も一時は夢にみた仕事に就いたものの、結局続けられず今は別の業界で仕事をし、没頭とまで呼べないが動画や文章を書くことにそれなりに熱を入れている。また、現状で成果らしい成果が出ていないことで、いつか結果が出ている彼のようになりたいなと思いながら読んでいた。

個人的にスンウとも似ていると感じたのが、ヒュナム洞書店のバリスタであるミンジュンの大学時代の友人で映画が好きなソンチョルだった。ソンチョルは、ミンジュン同様に大学卒業後の就職に苦戦。その後、彼は映画評論家としてヒュナム洞書店に現れる。彼の生き方は次のセリフに現れているように思った。

「とにかく、俺は映画を評論する映画評論家なんだって。肩書きなんてつけてもらう必要はない。俺が自分でそう思ってたらいいてことさ。それでいいんじゃないのか、生きるってのは」

P318

「いい人が周りにたくさんいる人生が、成功した人生なんだって。社会的には成功できなかったとしても、一日一日、充実した毎日を送ることができるんだ、その人のおかげで」

P320

自分の決めた道を苦しみながらも前に進んできたであろう彼の言葉からは、もう少し大胆に生きていくことの勇気をわけてもらえた気がする。長い人生、ひたすら行動できる時期もあれば、休憩が必要な時もある。どんな人生の波の中にいても、周りの人たちを大切にし、自分の内なる声にきちんと耳を傾けて、自分だけが決めた道を歩んでいこうと思った。


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