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崩壊するのは音大だけじゃないかも?『音大崩壊』大内孝夫

なかなか強烈なタイトルです。
大学進学率・進学数は50年間で倍増しているというのに、音楽学部に限っては20年間減少の一途であり、定員充足率は2012年以降一度も100%を超えていないというのです。

著者はその原因を、結婚観の変化により女子学生が音楽大学を進学先に選ばなくなっている現実(就職に結びつきづらい)と、時代や社会の変化に対応できない音楽大学の在り方にあると指摘します。もちろんすべての大学が危機なわけではなく、順調に学生数を増やしている音大はあります。一方、定員割れの実態はかなり深刻で、ここまでとは正直思っていませんでした。

本書で指摘されている音大の問題点、あるいは音大生のポテンシャルを活かしきれない状況は、なるほどと思うことばかりでした。たとえば音楽大学は音楽を職業とする人を育てる場所であるにもかかわらず、演奏以外に必要なビジネスの知識をほとんど教えていないという問題があります。(これは何も音大に限った話ではなく、歯医者さんからも似たような話を聞いたことがあります)

これは、まわりまわって音大生が演奏ではない就職先として選ぶ音楽業界全体にも関わってくる話だと思っています。アートマネジメントを教える学科はあり、公演制作や舞台技術に関しては能力のある人が供給されていると思いますが、ステージから遠い部門―経理、人事、広報といったバックオフィスに知識を持った人材が少ないと感じます。経営戦略のプロがいなければ変化する社会状況に対応できません。
ステージに近い人材は重要性が認識されているが、遠ざかるほど認識されていない。これは、長年働いてきた私の偽らざる実感です。音楽大学での価値観がそのまま引き継がれているように感じます。業界内で人材が回っており、他業種出身の人から知見を得る機会もあまりありません。集団凝集性の高すぎる組織は、外部環境の変化に鈍感になりがちです。この記事のタイトルに、崩壊するのは音大だけではないかも?と書いたのはその危機感があるからです。

本書の著者は、音大復活の戦略のひとつにシニア層に向けた生涯学習の場の提供をあげられています。私はそれに加えて、音楽の教員、講師をはじめホールや音楽団体で働く人たちなど音楽業界で働く現役社会人のリカレント教育の機能を持たせてほしいということも願っています。実践の難しさを知る中で、もう一度音楽の理論やアートマネジメント、さらにビジネスの理論を学びたいと思う人は多いはずです。いかがでしょうか?

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