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I Have Some Questions For You by Rebecca Makkai


あらすじ

映画学の教授であり、ポッドキャスターでもある Bodie Kane は母校 Granby School (たぶん全寮制高校みたいなところ)で授業を受け持つことになった。集まった生徒たちに架空のポッドキャスト番組をつくるよう指示するが、生徒たちは1995年に学校内で起きた殺人事件に興味を持つようになる。Thaliaという美しい女生徒が殺され、黒人教師が逮捕されたという事件で、Bodie は殺された女性のルームメイトで事件を知る当事者の一人だった。警察はおざなりな対応をして、聞き取り調査も十分に行わないまま事件を終結させた。だが、Bodie はある人物が真犯人でないかと疑っていた……

読みどころと感想

著者の Rebecca Makkai は前作 The Great Believers でピューリツァー賞のファイナリストに選ばれており、この作品もミステリーというよりは文芸に近い感じです。448ぺージという長編で、主人公 Bodie の思っていることをぜんぶ文字化したのかと思うぐらい、思考があっちに行きこっちに行き、事件に全く関係のない人物の名前やら、過去現在のさまざまな文化(特に映画はいっぱい出てくる)が飛び交って、思考がとめどなく流れるのですが、それだけでもかなり文章力の高い作家だなと思わせます。そして上手いなと思ったのが、過去の自分を俯瞰する構造になっているところです。学生にポッドキャストをつくらせ、1995年の出来事を思い出すのが2016年頃なのですが(たしか)、そこから5年ほどたった現在が第2部で出てきます。第1部でいろんなことがあって、いろんなことを考えて、現在進行形で展開していたところを、第2部で現在から過去を振り返る形になって、その後どうなったのかもわかるわけですが、5年も経つと熱量も薄まり、当時のことを客観的に見るようになった主人公の心のありようをうまく言語化してるのです。サブストーリーで(元)夫が女性関係で非難され、かばった主人公のアカウントが炎上するという話があるのですが、5年も経てば当事者でさえ「そんなことあったなー(遠い目)」となってしまう。その時は渦中の人、火だるまになっているかもしれないけど、炎上なんて一過性のものに過ぎない。小説を読んでいる読者にとっては、「5年」は1ぺージ先にあるので、いかに大局的に俯瞰して物事を見られるかというのは大事だなと思います。
このように、作者の筆力は非ネイティブ素人から見ても素晴らしいのですが、作品としてはちょっと微妙です。特にミステリーだと思って読むとちょっと肩透かしかも。最後には真犯人らしき人物が出てくるのですが、決定的な証拠はなく、えん罪の可能性もあります。また Bodie が「この人が真犯人」と決めつけているのですが、これも納得できる根拠がない。真犯人になにか個人的な恨みがあるのかと思えばそうでもなさそうだし、思い込みの激しい人なのかなという感想で終わってしまいました。

この本について

タイトル:I have some questions for you
著者:Rebecca Makkai
出版年:2023
出版社:Viking
ページ数:448

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