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「決まったかたちを持たない生きもの」【詩】

この世のすべての存在が
決まったかたちを持たない生きもの
だとしたら
身の周りのなにもかもが
水底の月のようにあやふやだった思春期に
ぼくの目はただしかったのだ

動物でさえ わたしたち人間でさえ
決まったかたちを持たない生きもの
だとしたら
なにも信じられなかった思春期に
ぼくの勘は正しかったのだ

けれども
決まったかたちを持たないこの世界で
生きつづけなければならない僕たちが
胸のなかに凝り固まった恨みや憎しみを
まるで家の鍵のようにも注意ぶかく握りつづけることが
いかに馬鹿げたことか
僕たちは
この世界に優しい気持ちで溶けてゆく
いっさいのかたちをもたない存在として
せめて
あたたかい心の
もちぬしでありたい
誰かにとっての
こころよい存在でありたい

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