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空き家のお隣さんには権利がある!

損害賠償請求権を根拠に、士業者の「職務請求」を活用して、登記簿上の空き家所有者の住民票や戸籍を調べてもらい、その物件の管理責任を問う「権利」がある、ということを前回お話しました。


実は、この方法にたどり着く前に、土地家屋調査士さんとのコラボで、彼らが日常的にこのことを行っていることを知りました。

それで、逆に法的根拠をきちんと確認すれば、様々な士業の先生方が空き家問題解決に向けて力を発揮できるようになるのでは、と考えた訳です。

今回は、そのエピソードをご紹介します。

土地家屋調査士さん

土地家屋調査士とは、ご存じの通り、土地の境界を測量して確定させ、それを登記簿に反映させるのがお仕事です。
不動産売買をされたことのある方なら、彼らにその作業を依頼したことがあるかと思います。

この境界の確定には、その境界に接する全ての土地所有者の承諾が必要になります。(四角形の土地なら、4辺を接する土地の持ち主がそれにあたる)
そのため、それらお隣さんに「立ち会い」をお願いするということが生じます。

ただ、お隣さんは必ずしもそこに住んでいるわけではありません。
別のところに家を持つようになり、そちらに引っ越したという場合があります。

本来なら,移転の際に,元々の家の登記情報の変更(所有者住所変更)を法務局に申請する必要があります。
しかし,ほとんどの人は不動産の素人さんなので,そのような義務があることを知ることもなく,移動してしまいます。

実際は,固定資産税の請求先が変わるということで,元々の家のある市役所の資産税課に移転を届け出ているのですが,持ち主も市役所もそれで困ることがなかったので,登記簿の方はそのまま放置されているというのが現状でした。

*ちなみに,法改正により,令和8年4月までには所有者住所変更は義務になりますので,ご注意ください。


隣の人が分からないと、土地が売れない?

私の行政書士のお客様に、親から相続した土地を売りたいという人がおられました。

その方は、地元でずっと飲食店を営んでおられたのですが、病気をきっかけに店をたたむことになりました。
相続した土地は、青空駐車場として貸していたのですが、ほとんど借り手がいないので、そこを売却して、そのお金を元手に別の場所に賃貸物件を購入し、その家賃を生計の柱にしたい、という考えをお持ちでした。

その土地は住宅街の中にあり、宅地としてもよいロケーションでした。
それで、その方に「これまでこの土地を手放すことは一度も考えたことがなかったのですか?」とお尋ねしました。

すると、「以前に不動産屋に売却を相談したことがある。でも、隣地の一人の行方が分からないので境界が確定できず,売ることはできない」と言われたとのことでした。仕方がなかったのかもしれませんが、不動産屋さんに見放されたのです。

確かに、確定測量をしないと売り物にはならないことがあります。
それでも『何とかしてあげよう』と、お客さんに寄り添うことはしなかったのか、そのことを聞いて残念に思いました。


探せばいいんじゃない!

このことを私の友人でもある土地家屋調査士に相談してみました。
そうすると,登記簿上の所有者の住所氏名を頼りに職務請求で住民票を交付してもらい,それに基づいて移転先を調べ,判明したら連絡をして立ち会いをお願いし,境界確定を行っているとのことでした。

士業の方ならお分かりいただけると思いますが,「職務請求」を行うための専用書式には,その人の生年月日や世帯主の名前などが書く欄があります。
でも,登記簿にはそれが書かれていません。あくまでも,本人の名前と住所だけです。
「そんな不完全な情報で市役所は受け付けてくれるのかな?」と不思議に思いました。

でも,現場は異なりました。
法的にきちんとした根拠のある理由と,請求できる権利のある人からの申請に基づいているのであれば,市民生活をサポートする役所は喜んで協力してくれたのです。

彼の行動により,すぐに隣地所有者が見つかり,連絡が取れ,すぐに協力してもらえることになり,無事売買まで辿り着くことができました。


この経験から,登記簿では分からない空き家所有者を探す方法がある,ということが分かりました。

この方法への確信が強まったのが,私の事務所のある地方自治体とのあるコラボ企画です。
次回はそのことをお知らせします。
(冒頭の写真は、そのコラボに関係した現場の写真です)