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涙の数だけ強くなれるかは分からないが、優しくはなれるはずだ

これまでの人生を振り返ってみるとそんなに多くの映画を観てきたわけではないが、外出自粛生活が長くなってきたということもあり映画を鑑賞することを生活の習慣の一つに取入れてみた。ただ、自分一人で鑑賞してもそれを誰かと分かち合うことができないし、批評文を書くほどの文才も知見もない自分としては結局自分一人の体験で終わってしまう可能性が高い。芸術の企画に携わっている身としては、自身の体験を他者と共有するための言語化や相手の理解や捉え方を知ることで、自分自身の思考がより広がっていくということは芸術に触れる最も大切なことの一つであると考えている。なので、どうにかして自宅にいながらこうした環境を作り出すことができないものかと思案していたところ、ネットフリックスパーティーなるものの存在を知ったので早速チェックしてみた

これはいいと思い、この機能を使って定期的に映画を鑑賞しようと。ただ、次に問題になるのは何を観るか、そして誰と観るかということだ。何を観るかということに関しては困らないといえば困らない。Netflixでまだ観ていない映画は山ほどあるし観たいと思っていてブックマークしているものも多い。ただ、それは結局自分の思考の範囲内で選ばれたものになる。映画を楽しむということだけでいえばそれでいいと思うが、今映画鑑賞に求めているのは、内容だけでなく目的地に向かって歩いている時に、たまたますれ違った人の洋服がいいなと思ってしまうような、アクシデント的な出会いであったりもする。外出自粛になるとどうしても自分の判断だけで全てを決定してしまう節があり、偶発的な出会いや発見が減る。そうすると好奇心の広がりが限定されてしまい、視野が固まってしまうということを危惧していることからも、どうにかしてそうした偶発性も補いたいと思っていた。なので、信用のおける友人に映画のセレクトを頼み、彼の名前を関した映画鑑賞グループをFacebook上に立ち上げた。これで何を観るかはクリアした。

次に誰と観るかということだが、できる限り幅広い年代や地域に住む人、違う仕事をしている人と一緒に観たいと思った。映画館に行くとなると友人関係の濃さだけでなく、物理的に近い人や時間の会う人としか行くことができない。今回は家にいながら観て話そうということなので、誰でも参加できるという状況を作りたいと思った。それに、Netflixパーティーは鑑賞中にチャットでコミュニケーションを取れるわけなので、できればいろんな視点や経験、知識を持っている人がいたほうが面白いとも思ったわけだ。そんなこんなで自分のソーシャルネットワーク上で情報をシェアしたところ、国内各地の様々な友人が参加してくれ、その友人が友人を誘うということになり、多様な人が揃った。インターネットを使い始めた当時にオンライン上では場所や時間、交友関係を超えて人と議論したり、共に何かを楽しめるんだということに感銘を受けたことを覚えている。このコミュニティもこういう状況下だからこそ生まれたものであり、同時にこういう孤独を感じる時間だからこそ誰かと何かを分かち合う時間を作るのは大切なことだろうとも思っていた。

そんなこんなでこれまで3回ほど開催し、おかげさまで好評いただいたので今では毎週土曜日20:00から「今吉義隆の土曜映画劇場」というどこかで聞いたタイトルを少々お借りし定期開催している。実際にやってみた感想としては、誰が映画を選ぶのかというセレクトの重要性と、スタート前後でzoomなどで顔を合わせて話し合う時間がとても大切だということ。セレクトの重要性は言わずもながであるが、やはりこういう状況下で何をシェアするのがいいかと考えてくれる想像力は必要になる。また、鑑賞する人も世代も場所も観てきた映画の数も違うので、なかなか揃えるのが難しい。だからこそ、「今はこれを観よう」と言い切れるセレクターの力は大切になる。もう一つのzoomでのやりとりは、上述したように映画体験を深める上では不可欠だ。映画のストーリーのどこに着目したが、どのシーンが気になったか、批判的な描写はあったかなど、できる限り全ての参加者が一言でも発信してくれるような状況をつくるといい。それは発言の平等性が重要というようりも、それぞれが何を捉えたかを分かち合うことが結果として一人一人の鑑賞体験を深化させることに繋がるからである。zoom越しに聞こえてくる赤ちゃんの泣き声なども全て一つの体験に繋がるのだから素晴らしい。

外出自粛が長引くこともあり、ぜひ家族や友人とNetflixパーティーの開催はお勧めしたい。映画の中で描かれる他者への愛情や人間の矛盾や葛藤を受け止め、その体験を誰かと分かち合おうとすることで自分自身の想像力は深まるはずだ。映画で流す涙が自分を強くするかはわからないが、痛みや喜びを自分に置換えて考えることができる想像力はこういう状況だからこそ忘れないでいたい。今吉義隆のセレクションと素晴らしい鑑賞者と共に映画を観たいという方は、ぜひ上のコミュニティをチェックしてくれれば。

今だからできることを楽しんでいくことこそが、我々が生きる大きな希望だと切に思う。明日もSTAY HOMEで。

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