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「君のシャツが捲れてお臍が見えている」(超短編)


              
「ねえ、あなた。次はお姫様に生まれたいと思わない?」
 Åは言いながら、寝転がった草原に足をばたばたとさせながら頬杖を付いて言った。
「あらいやよ」
 Bはくるりと巻かれた髪の毛を指先に捉えながら、隣で寝転がるAを見下ろし、ばっさりとした言い様で切った。
「えー、どうして、どうして」
 幼さを見せるAに、Bは口元に小さな竜巻を起こしながら指先の髪の毛を放り出した。金と茶色の混じった輝く細い線に、Bは少しも興味が無いように見えた。それよりも、ずっとAのおかっぱ頭の黒が美しいと思えた。
「だって、生まれ変わったら私たちはもう会わないわよ」
「そんなこと分からないじゃない」
「分からないわよ、勿論。だけど、私がカマキリで、あなたが蝶かもしれないじゃない」
「どうして私が蝶なのよ。貴方の方がよほど蝶が似合うわ」
「そんなことどうでもいいのよ。私はきっとあなたを捕食するものになる」
「食べたいくらい私が好きなのね」
「あなたが弱弱しいからでしょう?」
「ひどい」
 Aは頬を膨らませながら、目を瞑ってBの視線から目を隠した。
 花園のきらりと光る空気。風はいつも微かに梢をゆらしている。ここを天国というならば、そう固定される。Aは、いつも来世のことを話す。それをBは、言葉巧みに否定する。ここがひとりの檻の中で、ひとりは気づきつつも言葉遊びに付き合っている。そういう世界かもしれない。Aはごろりと上向いて寝転がった。ちらりと捲れた制服の裾から除いたAのお臍が、Bに懐かしい殺意を思い出させていた。     
 
 
 

谷川俊太郎「きみ」の一節を借りております。

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