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短いお話

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短い、小説になりきらないものを、載せていきたいと思ってます。
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記事一覧

【蔦の妃】(ちいさなお話)

どこか遠く、 お妃が蔦に巻かれる国がありました。 それはある日唐突に始まったことでありまし…

とし総子
3週間前
7

「花の娘の園」改(ちいさなお話)

 どこでもない、だけど、どこでもある。そんな場所。そこには三種の花の娘たちが育ち、そして…

とし総子
1か月前
7

『重い青』(短いお話)

 青だ、最初に思ったのはどうしてだったのだろうか。  それは青ではないと思った。  青だ、…

とし総子
2か月前
13

【川の流れの中へ】(短いお話)

 文章を各自が書き、持ちよって読み合う集まりに参加して一年半ほどが経っていた。  そこで…

とし総子
2か月前
13

「海のたね」(短いお話)

 生まれた場所は、それは小さな島だった。  自然は豊かで、花や蝶の彩は、鳥や魚にも写し込…

とし総子
2か月前
8

『花の娘の園』(短いお話)

 私が越してきた地域には、不思議な土地が存在する。 その土地は私の暮らすアパートのすぐ隣…

とし総子
2か月前
10

【そのちゃんはびっくりしてしまう】(絵本にしたいなぁと思っている短いお話)

                              そのちゃんは、ちょっとびっくりしやすい女の子です。だけど、びっくりしたくないからと言って、びくびくしながらなんてまっぴらだと思っています。  ある日そのちゃんは、ひとりで道を歩いていました。車がたくさん走る道ではないし、きれいな花が咲いている公園のとなりを通れる、そのちゃんのお気に入りの道です。  だけどその日は少し様子が違っていました。ゆっくりしっかり道を踏みしめるそのちゃんの向こうから、なんだか急いだ顔をした

「茫洋」(私小説?)

 心療内科の待合の時間、私は茫洋となる。これが果たして暗喩としてなのか自信もなくなるほど…

とし総子
4か月前
9

「素敵な姉さま」(ちいさなお話)

 私には素敵な姉が居ます。姉は黒と赤のドレスを持っていました。たくさんのリボンが波のよう…

とし総子
5か月前
14

【天使の一生】(みじかいお話)

 天使の作り方は、まず、つるりとした人型の入れ物の、頭の丸みから動きを吹き込みます。それ…

とし総子
6か月前
5

「あたらしい朝に」(ちいさなお話)

 おばあちゃんは、毎日何かを書いていた。それはどこにでもあるような薄い青色のノートで、い…

とし総子
7か月前
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「いつか君が恋をして」(ちいさなお話)

 君が好きになったものは、全部覚えているんだ。 それは菫色の雲の棚引く時間。君が好きにな…

とし総子
7か月前
8

『木になる』(小さなお話)

 朝起きると、まず私は歯を磨く。きれいに磨いた歯を鏡で確認し、顔を洗う。保湿液を塗り込み…

とし総子
8か月前
9

【揺れていたもの】(短いお話)

 あの木の陰に揺れていたものが、目の中で僕に顔を知らせようとしていた。それを必死で拒絶しながら、僕はありったけの力で腕を振り回した。世界は赤黒い空の所為で、暗く重たい。これは夢なのだと言い張れるのに、ちっとも世界は切り開けなかった。終ぞ晴れることのない闇が落ちて来る。その前触れに閉じ込められていた。これが現実ではないことは明白なのに、僕の腕はいつまでも愚鈍に僕の周りを回っていた。そんなものに恐れを抱くはずもなく、揺れていたものは迫っていた。ゆっくりとした、その確実さに僕は慄く