【揺れていたもの】(短いお話)
あの木の陰に揺れていたものが、目の中で僕に顔を知らせようとしていた。それを必死で拒絶しながら、僕はありったけの力で腕を振り回した。世界は赤黒い空の所為で、暗く重たい。これは夢なのだと言い張れるのに、ちっとも世界は切り開けなかった。終ぞ晴れることのない闇が落ちて来る。その前触れに閉じ込められていた。これが現実ではないことは明白なのに、僕の腕はいつまでも愚鈍に僕の周りを回っていた。そんなものに恐れを抱くはずもなく、揺れていたものは迫っていた。ゆっくりとした、その確実さに僕は慄く