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短いお話

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短い、小説になりきらないものを、載せていきたいと思ってます。
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記事一覧

『重い青』(短いお話)

 青だ、最初に思ったのはどうしてだったのだろうか。  それは青ではないと思った。  青だ、…

とし総子
4日前
13

【川の流れの中へ】(短いお話)

 文章を各自が書き、持ちよって読み合う集まりに参加して一年半ほどが経っていた。  そこで…

とし総子
7日前
13

「海のたね」(短いお話)

 生まれた場所は、それは小さな島だった。  自然は豊かで、花や蝶の彩は、鳥や魚にも写し込…

とし総子
8日前
7

『花の娘の園』(短いお話)

 私が越してきた地域には、不思議な土地が存在する。 その土地は私の暮らすアパートのすぐ隣…

とし総子
13日前
10

【そのちゃんはびっくりしてしまう】(絵本にしたいなぁと思っている短いお話)

                              そのちゃんは、ちょっとびっく…

とし総子
1か月前
10

「茫洋」(私小説?)

 心療内科の待合の時間、私は茫洋となる。これが果たして暗喩としてなのか自信もなくなるほど…

とし総子
2か月前
9

「素敵な姉さま」(ちいさなお話)

 私には素敵な姉が居ます。姉は黒と赤のドレスを持っていました。たくさんのリボンが波のように幾重にも縫い付けられた赤いドレスは、永遠の恋人との結婚式で着ていらっしゃいました。ドレスよりも光沢のある赤いハイヒールには、甲の部分に一粒の真珠の飾りが付けられており、姉がドレスの裾を摘まみ上げる度に、きらりと光を返していました。それはまるで花を摘むように可憐な様子で、式に出席していた方々は、溜息のように姉の名前を零していたものです。姉の名前は花の名前でした。赤く、可愛いその名前が人の口

【天使の一生】(みじかいお話)

 天使の作り方は、まず、つるりとした人型の入れ物の、頭の丸みから動きを吹き込みます。それ…

とし総子
4か月前
5

「あたらしい朝に」(ちいさなお話)

 おばあちゃんは、毎日何かを書いていた。それはどこにでもあるような薄い青色のノートで、い…

とし総子
4か月前
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「いつか君が恋をして」(ちいさなお話)

 君が好きになったものは、全部覚えているんだ。 それは菫色の雲の棚引く時間。君が好きにな…

とし総子
5か月前
8

『木になる』(小さなお話)

 朝起きると、まず私は歯を磨く。きれいに磨いた歯を鏡で確認し、顔を洗う。保湿液を塗り込み…

とし総子
6か月前
9

【揺れていたもの】(短いお話)

 あの木の陰に揺れていたものが、目の中で僕に顔を知らせようとしていた。それを必死で拒絶し…

とし総子
6か月前
7

【星が瞬く遠く】(ちいさなお話)

 ねえ君、今もお利巧にしているでしょうか。私のことは、もうそれほど覚えていないかもしれま…

とし総子
8か月前
8

「変化する目をもつ少年の話 ながい終わりまで」

この続きです。 父さんは、おれの手をとった。 よく冷えていた缶の冷たさが、父さんの体温の上に乗っかって伝わる。 「たすく」 父さんの声に、取られた手からその目に顔を向ける。 「何」 「どうしたい?」 「どうって?」 父さんは握った手に力を籠めながら、その喉を震わせた。 大丈夫だよ、と言ってあげたくなった。 父さんの顔を最近よく見るようになって、気づいたのだ。 父さんの顔は、とても疲れていた。 当たり前だろう。 朝はおれが起きるより早くに出かけていき、夜はおれが寝ついた後に帰