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【天使の一生】(みじかいお話)

 天使の作り方は、まず、つるりとした人型の入れ物の、頭の丸みから動きを吹き込みます。それに蓋をするために、陽光を撚り合わせて作った金色の糸束を植え込みます。するとつるりとしていた入れ物の中では、その金色の根元からエネルギーを滴らせ、中心へと集める滑らかな線が生まれます。胸のあたりから、まろく底を降ろしていくと、お臍のあたりで止まり、ゆっくりとその温かな色を表面へと染み出していきます。そうやって動く準備の出来た入れ物は、覚束ない動きで前に進みだし、爪先が濡れたところでしゃがみ込みます。手を差し出して、天の川の底に転がる丸い石を二つ拾います。それはどこよりも空に近い天の川で、青く青く染まった石です。石の大きさが似ているのかを握りしめてよくよく確かめ、そっと目のあたりへと押し込みます。その石の丸さに沿って、器は薄く覆っていき、空気の中にふわふわと遊ぶ陽光の粒がその淵へくっついていきます。ぱちりとひとつ瞬きをして、はじめての視界を得た入れ物は、天の世界を見回します。そこにはすでに天使がいくつか飛び交っておりまして、入れ物は自身の背中には、それに必要なものが無いことに気が付きます。口の無い天使たちが頭の上からそっと指差してくれる方に進みますと、そこには幾本かの樹が立っていて、純白の羽が実っています。天使になるための最後の部品は、その手で樹から捥がなくてはなりません。入れ物は樹の下に立ちますと、つるりとした指先に力を込め、低い位置の枝を掴みます。その枝にも羽は生えていますが、まだ幼いものだったのと、自身のあとに出来ていく天使のことを思い、入れ物はぐっとその軽い身を持ち上げます。つるりとした足の裏を近くの枝に置き、また上へ。そうしていい大きさに育った羽を見つけます。そばに寄ると、石の瞳をその羽先に押し付けるようにして見ます。細やかな繊維の線がいっぱいに光を吸い込み、たっぷりとしたエネルギーで満たされています。入れ物は、ゆっくりとつるりとした指先で、枝に接している羽の根元を囲むように掴みました。それは不思議な軽い感触で抜け、根元を持った手の中で柔らかに羽は二つに割けました。入れ物は羽を両手に採った瞬間、この身が命の循環の中に嵌り込んだことを感じるのです。入れ物は、吹き込まれた動きの通りに羽の根元を指先に摘まみ、つるりとした背中へと当てがいます。二つの羽が一対として動けるように、丁寧に位置を確認し、さっき石を埋め込んだときのように羽の根元を押し込みます。ふたつの羽の根が、しっかりと植えこまれたとき、入れ物はすっかり天使として完成したのでした。

 天使は大きく空を仰ぎ、しなやかな羽を広げます。

こうして羽は天使の部品としてその天使のエネルギーが尽きるまで、軽いその身を浮かべるのでした。やがてそのエネルギーが尽き天使の内側が重たくなった時、天の世界のどこかに落ちた天使は、吹き込まれた最後の動きに従って手足を丸めます。ここからは、内側に育った種が次は目を覚ます番がやってくるのですが、それはまた別のお話。

青い空のうつくしい、天の国の、天使の一生のお話でした。

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