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余情

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小説。 あなたに一目会うために十年を繰り返すわたしのお話し。
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#彼女

余情 52〈小説〉

 母に連絡を入れて、今の自分の状況を説明した。彼女のことを聞かれたが、詳しくは話をしなか…

とし総子
1年前
3

余情 51〈小説〉

 私の中で、あなたが笑ってくれることがあった。やさしい笑顔で、目を細めて、うすい唇は光る…

とし総子
1年前
3

余情 50〈小説〉

 私は結局大学を卒業後、声を掛けて貰った書店で働くことにした。彼女はその頃就活の追い込み…

とし総子
1年前
1

余情 49〈小説〉

 空は透けて、風が一陣強く吹いた。朝の講義の後、私は大学内のコンビニに寄った。彩りの柔ら…

とし総子
1年前
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余情 47〈小説〉

 お正月の間、私がバイトに出てしまう以外の時間を、彼女と私は大体いっしょに過ごすことにな…

とし総子
1年前
3

余情 46〈小説〉

 あなたがこの詩集の作者のことを、話してくれたことはなかった。どうしてこの詩をあんなにも…

とし総子
1年前
3

余情 44〈小説〉

 彼女のコートは、結局クリスマスプレゼントに私が半分を持つことで買うことになった。彼女は大いにはしゃいだ。  実物を見に行ったのは、雑誌を見てからすぐの休日だった。大通りに面した、何件もの洒落た店が並ぶ一帯。服の好きな人たちからは有名な場所だが、私には敷居が高く感じられ、そこを歩く人たちには一種の資格のようなものが必要なのではないかと、歩きながらも考えていた。抑えめな色味で合わせられたマネキンが並ぶ道を、二人で歩き、私たちは目当ての店へと入った。店員が困惑した様子を感じたら、

余情 43〈小説〉

 クリスマスから年始にかけて、本屋は忙しかった。包装を頼まれることが増え、また図書券もよ…

とし総子
1年前
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余情 37〈小説〉

 後輩と会わないまま、私は二回生に上がった。それは大した感慨も湧かなない春の訪れだった。…

とし総子
1年前
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余情 34〈小説〉

 夏休みに入ってからは、一日の大半をバイトに費やすことも増えた。  その代わりに、後輩と…

とし総子
1年前
3

余情 33〈小説〉

 児童書の一帯を整えていると、学生の塊が店の前を通っていくのが見えた。  その大きな流れ…

とし総子
2年前
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余情 31〈小説〉

 「それで」と促されたとき、私は何を聞かれたのか、分からなかった。  目の前の級友の目が…

とし総子
2年前
5

余情 28 〈小説〉

 リビングに通された私は、あなたの母親が勧めてくれたソファへと座った。  部屋は落ち着か…

とし総子
2年前
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余情 24 〈小説〉

 冬が来て、春がまた来て、繋ぎ合った指先が溶け合うように夏が来た。  あなたがいない夏。  私は二度目の受験生をやっていた。  私のまわりには人があまり寄りつかなくなった。その代わりのように一人、昼食をいっしょに取る級友ができた。彼女はやわらかく三つ編みを編み、眼鏡の奥の目がつよい意志をもっていた。  彼女と話すようになったきっかけは、やっぱり本だった。  出会いは、春。  クラスが進路によって分かれ、学生という身分の短さを誰もが感じ始めていた。それがもたらす副産物のように、