大切なものを探しに(前編)
なぜかずっとここにいたくなる。心地よい居心地がその街にはあった。ワインで有名なボルドーで見つけたラグビーのある景色。
ボルドー、その街に行こうと思ったのには訳がある。W杯出発前、スポーツライターの藤島大さんと話している時だった。「W杯はね、でっかい街じゃない。ちっちゃい街がおもしろんだよ。その土地のラグビーを感じる。それが醍醐味だね」。大さんはそう笑って教えてくれた。
パリやマルセイユ、8万人規模のスタジアムを持つ大都市ではニュージーランドvsフランスなど強豪国の好カードが組まれる。その一方キャパの小さいスタジアムではティア2と呼ばれるラグビー新興国の試合が組まれることが多い。
大さんは「ただね、ラグビーって強い弱いじゃないから。どれだけ熱いかだね」と笑った。その言葉の通りだ。スケジュールを組む中でトゥールーズから程近いボルドーに行き先を決めた。
ボルドーの街は、降り立った瞬間から気に入った。古い街並みが残る中心部は高い建物がなく、空が広い。緩やかに流れるガロンヌ川沿いにはランニングを楽しむ若者やカフェでくつろぐお年寄りの姿があった。のどかな、牧歌的な雰囲気が気に入った。
ボルドーでは、フィジーvsジョージアを撮影した。ジョージアの熱いラグビーにフィジーがたじたじ。最後の最後までわからない展開(ジョージアが蹴り出したボールのバウンドがあと少し違えば…)だった。ノーサイドの笛と共に両チームの選手が倒れ込み、立ち上がることができないほどの死闘だった。
大さんの言う通り、小さな街のW杯にはドラマがある。1泊2日のわずかな滞在期間、あふれるボルドーの魅力に後ろ髪をひかれながら翌日早朝にサン・テティエンヌへと向かった。
その後、サン・テティエンヌ、リヨン、そしてナントでの日本vsアルゼンチンを撮影した。多くの取材者は決勝トーナメントに向けてパリ、もしくはマルセイユへと向かう中、どうしてもボルドーにもう一度向かいたくなった。
ボルドーには何か惹かれるものがある。それを探しに行くために、長距離バスに乗り込んだ。ナントからボルドーへは約4時間。プール戦を終え、一つの区切りをつけるためにも静かな時間が必要だった。
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