ラグビーのある景色を求めて、トレビーゾ
ドアを開けると、チーズが焼ける匂いでむせ返った。店内に飾られた色とりどりのサッカーチームのタオルマフラーの中に、緑と白のジャージーを見つけた。その一角だけ、何か神聖なものが宿っているように思えた。
イタリアの東の上、的確にその場所を示せないときはベネチアのすぐ近くと言った方がイメージしやすいかもしれない。トレビーゾはそんな小さな街だった。
日本から約24時間、ベネチア・マルコポーロ国際空港からバスと電車に揺られて約1時間。埃が舞う小さな駅を降りてホテルを目指した。ホテルのカウンターでは陽気なボーイに「イタリアは暑い、日本はどうだ?」と聞かれ、「日本も負けてない」と答え、なんとか笑いを誘うことができた。
ラグビー日本代表のW杯前最終テストマッチ、イタリア戦の撮影のために訪れたトレビーゾは、2007年W杯で日本代表HCとして指揮をとったジョン・カーワンがプレーしたクラブチームBenetton Rugbyのある街だ。ちなみにカーワンは日本代表HCの前にイタリア代表のHCも務めている。きっとラグビーに熱い街なのだろうと思い、期待を膨らませていた。
その想いを焼き尽くすかのように暑いトレビーゾ、街を回ってもラグビーの景色は皆無。探しに探し、唯一見つけたのがカフェ&バー「Osteria Trevisi」だった。
街の中心にあるシニョーリ広場の裏道を曲がるとあるその小さな店は、美味しいピザと陽気なマスターが人気の店だ。店内に充満するチーズの香り、カウンターに鎮座する常連客らしき老人は店の置物のように年季が入っている。何を注文するか迷っていると、店主のマルコが「このピザがうまい」と指差す。言われたままトマトとナスのピザを注文し、瓶ビールを手に焼けるのを待った。
マルコは日本人だとわかると、イタリアとの試合を予想し始めるも、そうそうに昨夜の南アフリカとニュージーランドのテストマッチの話題で盛り上がった。言葉の一つ一つからラグビー好きな人の香りが漂ってくる。壁に飾られたBenetton Rugbyを撮影してると、嬉しそうに「トレビーゾのチームだ」と笑った。
「今夜の日本とイタリアの試合だが…」、話を振り出し戻し予想がまた始まった。常連の老人が何やらマルコの予想に文句を言っている。ピザを頬張り、答えを待つ。
「日本はいいチームだ、でもイタリアもいいチームだ。今夜は0−0で手を打とう。本番はW杯だから」
マルコが大笑いしながら見送ってくれた。イタリアに来る前は、スリや詐欺など物騒なことが多いと聞いていたイタリア。来てみて分かったのはどの人も温かく、優しく、陽気なこと。
自分の目で見て、話を聞いた。新しいイタリアに出会えてた気がした。そういえば、額に飾られたジャージーに添えられた写真のことを聞くのを忘れた。次行くときに聞いてみよう。きっと自慢げにマルコが教えてくれる。
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