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「スマート農業指導士」って?資格取得を目指すJA職員に聞いてみた。JA秋田おばこ 佐々木 基登

広報紙「あきたびじょん2023年1・2月号」
新春特別対談 若者たちの挑戦が、秋田の未来をつくる

スマート農業を教えてくれる人ってどんな人?

ロボット技術や情報通信技術(ICT)などを活用し、農作業の省力化・作物の高品質化が期待できる「スマート農業」。

普及に伴い、今後は多くの指導者が必要になると予想されています。

それではいったい誰が、どんな思いで指導者を目指すのでしょうか。
今回は、「スマート農業指導士」の資格取得を目指す佐々木さんを取材しました。

《名前》佐々木 基登(ささき もとのり)
《年齢》30歳
《出身》秋田市
《経歴》JA秋田おばこ 営農経済部 営農指導課 所属。兼業農家の両親を見て育ち、農業の道へ進むことを決意する。金足農業高等学校では農業の基礎を身に付け、秋田県立大学アグリビジネス学科では、農畜産物の生産から流通・消費、マネジメントなどを学ぶ。現在はJA職員として日々の業務をこなしながら、秋田県立大学が実施する「スマート農業指導士育成プログラム」を受講している。

育成プログラムを受講するJA職員に密着!

― 「スマート農業指導士」について、詳しく教えてください。

スマート農業に必要とされる新しい知識や技術、技能を修得し、農家の方々の円滑な導入をサポートするのが、スマート農業指導士の役割です。私は今、その資格を取得するために、県立大学が実施する「スマート農業指導士育成プログラム」を受講しています。

「スマート農業指導士育成プログラム」とは
県立大学が令和4年度から実施している職業実践力育成プログラム。社会人が対象で、受講期間は約1年間。スマート農業技術の普及・指導に貢献できる人材の養成を目的としている。「スマート農業指導士」は、県立大学独自の資格。詳細はこちら(秋田県立大学HP)
※このプログラムは、文部科学省の「職業実践力育成プログラム(BP)」認定課程です。

― スマート農業指導士を目指したきっかけは?

私は普段、JA秋田おばこの組合員で構成される農業法人や個人農家へ、農業経営の技術・経営指導、農畜産物市場の情報提供、新しい作物の導入など、営農を支援する活動を行っています。

農業は、高齢化や後継者不足で担い手が減少しており、現在は法人等に農地を集約し、営まれるようになっています。
しかし、営農支援の活動をしていると、農地の集約は進んだものの、管理の限界や手が回らなくなっているという実態を目にします。そういった課題を解決するツールの一つとして、スマート農業があると感じます。

時代やニーズに合わせた指導は秋田の農家の将来にとって必要なことですし、変化に伴う問題・課題を解決するためにも、スマート農業指導士の資格が必要だと思い、受講しました。

営農指導員はJAの顔。担当エリアの農家を回り、適切な指導や情報提供などをするのが佐々木さんの仕事
大仙市のホウレンソウ農家 田口さんの圃場で品質を確認している様子

― 普段の仕事は主に「指導する」という立場ですが、現場や会社でも覚えることがたくさんあるのでは?

そうですね。まだまだ若輩者なので先輩に相談したり、いまだに農家さんから教えてもらうことも多いです。これまで農業についてたくさん勉強をしたつもりでしたが、やっぱり会社や現場にいると、さらなる学びや発見があります。

こちらはJA秋田おばこ園芸振興拠点センター。地元農家が育てた野菜や果物が集まる集出荷施設
集荷されたホウレンソウ。農家の高い栽培技術とJA職員の適切な指導によって高品質を保つ
取材時には、明治・大正時代から雄物川流域で栽培されている「強首(こわくび)白菜」も集荷されていました。甘くて軟らかいのが特長です

農家の方々からは「いつ収穫したら高く売れるか?」「夏の暑さに負けない良い品種がないか?」など、あらゆる角度から質問が飛んできます。そういった疑問や悩みに即座に対応できるよう、私たち営農指導課は、日々知識をアップデートしなければいけません。

スマートな要素は自動化だけじゃない

スマート農業指導士育成プログラムを受講する様子(座学)

― スマート農業指導士育成プログラムを受講した感想を教えてください。

決められたルートを自動走行するトラクターに試乗したり、農薬散布ドローンを操作したりと、かなり新鮮なプログラムが多いです。

一昔前までは、農業に関わる機械が「自動で作業をする」なんて考えられなかったですよね?最新のドローンはあらかじめルートを設定すると、自動で飛行するんですよ!率直に技術の発展に驚きを感じますし、それを農業に取り入れていることが革命的だなと思います。

育成プログラムのオリエンテーション時の写真

最近では高度な農業経営を可能にするシステムを学びました。ビニールハウスの中の温度や湿度を自動制御で管理し、そこから得たデータ等の活用・解析、農作物の育成や病害を正確に予測するというものです。スマート農業といえば「農業の自動化」だけだと思っていたのですが、データを解析して活用することもそれに含まれるんだな、という気付きがありました。

変化しつつある現代農業の在り方

― 秋田県でスマート農業はどれくらい普及していますか?

稲作に使用する「農薬散布ドローン」は、ここ2、3年でかなり普及しています。主に所有する田んぼの規模が大きい個人農家や農業法人への導入が多いです。

― スマート農機は、誰にでも簡単に扱えるのでしょうか。

最新の機器が備わった農機や専用ソフトを使うので、普段からスマホやパソコンを使っていない方にとっては、ハードルが高いと感じます。逆に言えば、それらを普段から使い慣れている方なら、すぐに順応できると思います。

講義では圃場や肥培などを管理する専用ソフトの使い方も学ぶ

― これからのスマート農業に期待していることはありますか?

農作業の効率化・省力化、課題の明確化、作物の高品質化など、あらゆるメリットが期待できます。また、農業に必須と思われている化学肥料や農薬についても、スマート農業によって使用量を減らした栽培も可能になるといわれています。つまり、生産性を維持しつつ、環境保全に役立つ農業も実現できる可能性もあるんです。

マイナスイメージをプラスに変えたい

―佐々木さんの今後の目標を教えていただけますか?

スマート農業と農家さんとの間には、「お金がかかる」「とっつきにくい」という壁があると感じています。初期費用もかかるため、いきなり導入するにはかなり不安がありますよね。

そんなマイナスイメージをプラスにできるよう、メリットや費用対効果を分かりやすく伝え、スマート農業と農家さんをつないでいきたいと考えています。それが、スマート農業指導士の使命だと感じています。

《撮影協力》JA秋田おばこ
《HP》https://ja-obako.or.jp/

[聞き手:じゃんご / 秋田ブロガー兼YouTuber]https://dochaku.com/

広報紙「あきたびじょん」
https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/63621

【過去に投稿したあきたびじょんBreakの記事では、スマート農業を実践する男鹿・潟上地区のキク農家・吉田さんを取材しています】