若手キク農家がチャレンジしている"スマート農業"って何? 男鹿・潟上地区園芸メガ団地 吉田洋平
秋田県男鹿市にはキクの大規模なほ場、通称「メガ団地」があります。
「メガ団地」とは、米に強く依存した農業経営から脱却し、野菜や花きなどの園芸作物の生産・販売を推進するため、県内各地に整備された大規模園芸産地のことです。
メガ団地にはさまざまな形態がありますが、ここ「男鹿・潟上地区園芸メガ団地」に参入する農家は、メガ団地の整備主体のJAからハウス施設や農業機械などをリース方式で借りることができ、園芸品目に取り組むに当たっての初期投資を大幅に軽減できるなどのメリットがあります。
男鹿・潟上地区園芸メガ団地では現在、8軒の農家がキクを栽培中。今回のあきたびじょんBreakでは、そのリーダーを務める吉田さんを取材しました。
最先端技術を駆使したスマート農業
ー お疲れさまです!今はどんな作業をしていたんですか?
電球の片付けをしていました。僕が管理するほ場では、キクの開花調整をするために「赤色LED電球による電照栽培」をしているんです。キクは日の長さが短くなると、花芽を作って開花する性質を持っているので、夜にも光を当てて、開花する時期を遅くしています。
<真夜中に照明をあてることで開花を抑制する装置。電球のON・OFFは機械が自動で行う。スマートフォンでモニタリングも可能>
<きれいに背丈がそろったキク。電照栽培をしているため生育段階のそろいが良くなる>
ー あまり見かけない電照栽培ですが、どのような効果が期待できるんでしょうか?
従来のキク栽培は、天候によって開花するタイミングがばらばらで、何度も収穫しなければならず、かなり手間がかかっていました。それに比べて電照栽培は、ある程度ですが開花時期を調節でき、1度で多くのキクを収穫することができます。その結果、お盆やお彼岸などの需要期に狙いを定め、安定した量のキクを出荷できるんですよね。
僕のほ場では電照だけでなく、キクの苗を畝(うね)に植える定植作業や収穫作業にも機械を導入しているのが特徴です。いわゆる「スマート農業(※)」というものです。
<自動で真っすぐな畝を作れるトラクター。肥料を部分的に施せる機能もあるので経費削減につながる>
<小ギクの収穫機。畝の端から一斉に収穫が可能>
<収穫したキクを出荷用に整える選花ロボット>
<畝立て・定植作業から選花作業まで、スマート農機で一貫して作業しているのはここが日本初>
ー スマート農業を導入したことで、どんなメリットがありましたか?
従来より人手がいらず、効率よく作業できるのが一番のメリットです!これまで畝作りから収穫まで、ほとんど手作業だったので。特に苗を植える作業は1日中しゃがみっぱなしで、それを1週間続けてやってましたからね。今思い返せば地獄のような作業でした(笑)。
収穫作業もだいぶ楽になりました。畝一列分のキクを収穫するとして、手作業では1時間以上かかるところを、機械では5分くらいでできちゃいます。それも、電照でキクの開花時期をそろえているから可能なんです。
最初のメガ団地
ー 吉田さんはずっとキク農家を目指していたんですか?
そうですね~。実家がキク農家だったということもありますが、それ以前に農家って、自分のやりたいことができるじゃないですか。縛られずに自由に働きたかった、という思いが昔から強かったですね。成功するも失敗するも自分の実力次第という生き方が、僕には合ってると思ってこの仕事を始めました。
<主に露地では小ギク、ハウスでは輪ギクとスプレーギクを栽培している>
ー メガ団地に参入したきっかけは何だったのでしょう。
前から挑戦してみたかった「安定した出荷」と「広い面積での栽培」が、県と協力することで実現できそうだったので、やらせてくださいと手を挙げました。でも当時、男鹿市のメガ団地に参入したいという農家さんは少なかったんですよ。
ー メガ団地って、参入したい農家さんがたくさんいるイメージがありました。
今となっては全国からも注目されるようになったメガ団地ですが、立ち上げ当時は前例のない取り組みでした。尻込みするのは当然のことだったのかもしれません。でも僕は、リスクよりもメリットの方が大きいと考え「参加する農家がいなければ全部のほ場を僕がもらいます!」という気概で飛び込みました(笑)。
ー 前例がないのは、とても不安になりますね。
最終的に男鹿のメガ団地を立ち上げた時のメンバーは、ほとんどが新規就農者でした。スマート農業を導入して効率的に作業できるようになり、収穫量も安定してきているので、やっぱり飛び込んでよかったなって思ってます。
稼げるスタイルを確立したい
ー この団地に、若手就農者は参入してきていますか?
やりたいと興味を持って訪れてくれる方、研修を受けに来る方がいますが、簡単には就農につながらないですね。将来的には、研修の受け入れや若手就農者の雇用なども、自分のところで積極的に行いたいと思っています。
そのためにも、「自分が取り組む農業で稼ぐこと」を確立させなければならなくて。現状、スマート農業を導入していても人手は足りていませんし、課題もたくさんあります。まずは稼げるスタイルの基盤づくりからですね。
ー 移住などをきっかけに、「農業」に携わりたいと興味を持つ方も多いと思います。吉田さんから見て、農家はおすすめできる職業ですか?
副業で農業に取り組むのであれば、リスクが小さいのでおすすめできるかな。でも、農業で生計を立てようとするなら、それなりの覚悟が必要だと思います。生半可な気持ちで稼げる職業ではないので。ましてや1人で取り組むとなると、投資からのスタートなのでリスクが大きくなりますよね。それでも本気でやる気があるんだったら、可能性はありますよ!
キクで地元を盛り上げる!
ー 今後のビジョンを教えてください。
スマート農業を導入しても、電照の明かりを切るタイミングや、ほ場のスケールメリットを生かせていないなど、課題はたくさんあります。ちょうど今、来年の計画を立てる時期なんですよね。「雇用を増やしてたくさん植えようかな」、「いや、人は増やさずにキクの品種(色)をしぼって育てたらどうかな」...といった具合で、絶賛悩み中です。
あとはやっぱり、農業で地元を盛り上げたいですよね。繰り返しになるけど、そのためにはスマート農業で「稼げる農業」を確立させることが最優先。今年は昨年のデータを踏まえ、お盆向けの小ギクの面積を5倍に増やして収穫することができました。このように、機械化とともに安定した実績をつくることで、後に続く人が増えてくるんじゃないかと思っています。
【男鹿・潟上地区園芸メガ団地共同利用組合】
【取材・文:秋田ブロガー兼YouTuber じゃんご】https://dochaku.com/