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Labyrinth“ラビリンス”ドイツ大手スーパーの精肉部に迷い込む。

窮屈なロッカールームを抜けると大きな冷蔵庫と冷凍庫そしてゲヴュルツカンマー(Gewuerzkammer:スパイス倉庫)があった。先回お話しした通り、見慣れない赤白基調のスパイス袋を見つけた。赤白の別のメーカーも存在する。

当然、ドイツのメーカーではあるものの知らないメーカーだった。

そこを抜けると馴染みの機械が顔を出した。クッター(Kutter カッター)これは絹引きのソーセージ生地を作る機械(そればかりではなく混ぜたりすることだけにも用いられる。)日本ではエマルジョン状の生地、というと理解できる方も多いかもしれない。

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写真)クッターとエマルジョン生地

そしてWolf(ヴォルフ:ミンサー。ミンチにする機械)パッケージングする機械・・・と続く。

燻製庫は少し使い辛そうなところにある。無理やり部屋を作ったか、もともとスーパーマーケットを建築する際、それぞれの部門の場所割だけして後付けで機械を増やしたのかもしれない。三角のデッドゾーンに置かれている、そんなイメージ。大きな燻製庫は窮屈そうに立っていた。

精肉部門とは言えスーパーマーケット内で作っているとは消費者にとっては中々嬉しい事ではないだろうか?

ふと最近の日本のスーパーマーケット事情が頭によぎる。

棚に置いてある肉加工品に変化が表れてきていると皆さんも感じたことはないだろうか。

今までの商品のほかに肉などを販売するように発泡スチロールのトレーにラップされた生ソーセージ的なものを見かけないか。まるでそこで作ったかのように、フレッシュさを売りにしたような。

興味本位で手に取ったことがある。

まさに『手作り感』を誇張した商品で、原材料表示を見れば一目瞭然。消費者を小ばかにした商品のひとつである。

製造者と販売者、消費者の売買の闘いである。

内容が伴えば悪い事ではない。しかしながらどのように売れば買うか、極論で言えば、究極そこにしか特化していない。

マーケティングやセールスという名のもとに『売る』研究は盛んで、心理学から脳科学の分野にまで及ぶ。『無意識のうちに手にとってしまう、買ってしまう』簡単に言えばそういう研究だ。

残念ながら消費者は常にその『実験台』となっている。

製造者の意図とは離れたところで、最終的な販売者が更に横着になる場合もある。

これは私が実際に体験した紛れもない事実なのでしっかり聞いてほしい。

昨今、マルシェや小さなイベントごとが全国的に旺盛だ。(コロナ以前)

今までの祭りの出店とは何か違うお洒落な今どきの店の前に消費者が並ぶ。

インスタ映えもするだろうし、店側もそういった意識でいる場合もある。取り敢えず全国的に流行っている。

さて立ち位置が変われば色々なものが見えてくる。消費者の立ち位置から見えなかった事が出店者の私だから分かった。売り手の思惑と消費者のその商品に対する信頼は必ずしも一致しない。むしろベクトルは真逆、が多い。

先ほども述べたように、今まであった祭りの出店などとは比べ物にならないほどのクオリティーの商品に出会う事も多いだろう。その中で、ソーセージを販売されている出店者は多い。それは私のように専門店としてではなく、メインの商材のサイドメニューで置かれていることが多々あるからである。

そしてそれらは『手作り感』をもって販売される。(サイドメニューのソーセージでも実際に手作りしているところは勿論あるし、手作りのものを買い付けている場合もある。)

ある日、不思議な気持ちになった。よく見ると似たようなソーセージばかりである。どれもが“スパイシー”など香辛料がきいている、と表現されるようなソーセージだった。見た目も、味の表現もかぶっている。

ある日Aスーパーに買い物に行った時の事である。

そこには簡易的なものだけを買いに行く。簡易的とは、私のハムソーセージ作りに必要なものではなく、ランチに使う際必要なイタリア産トマト缶や砂糖・食用油などである。時間のある時に、ふと冷凍ショーケースに目が留まる。

そのソーセージがそこにはあった。


業務用なのである程度の量が入っている。(1キロ)それに加え(このような商品があったのかと思ったが。)製品は不完全なままパックされていた。

不完全なままとは、ソーセージが繋がっているのである。

想像しにくい方もおられると思うので簡単に補足する。

出来上がったソーセージの生地は腸に詰めていく。詰め終わると今度はひねっていく。ひねるとはつまりソーセージのあの形にしていくのだが、ワンペアずつひねるのが通常だ。つまり2本ずつソーセージが生まれる。この時はまだすべてが繋がった状態。

その後、燻製するなり火に通すなりして完成したら1本にばらし包装する。

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写真)このようにつながっている状態。写真は燻製ドライソーセージの一種“カバノッシ”

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※気乗りがしなかったが味見の為に焼いた。焼いていると香りで酔ってしまった・・・焼く前はバジルの香り。焼きに時間がかかるので焼いていると気持ち悪くなってしまい食べられず。

試食した両親曰く、安物のハンバーグみたいな味、との事。私が焼いていた時に感じたのは手羽先のから揚げの衣の香り。ラベル表示以上にそれぞれの添加物の分量は多めなのではないだろうか。

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繋がったまま販売するという事で、最後の手間を省いて圧倒的なコストパフォーマンスをしています、というのが製造者・小売業者の言い分だろう。もともと添加物だらけの安価なものを更に安くする努力というべきか、はたまた努力を怠ったというべきか・・・驚いたのは実際にはより不完全であったこと。こういう販売をする場合、両端はコマ結びのように結ぶ。これはソーセージの生地が漏れないようにとか、変形を防ぐためだが・・・結ばれることなく切ったまま、だった。

そしてそこに買い手が付加価値をつけることに成功した。これは製造者・小売業者は意図していなかったことだろう。

販売者はそこに目をつけ不完全な商品にエンターテイメント性をもって付加価値をつけた。

ソーセージが繋がっていることで見た目に『手作り感』が演出できる。そして焼く際、わざわざ切らずに焼き台に乗せ客の目の前で次々に切っていく。

この魅せるアクションに消費者はサイドメニューにもかかわらず魅力を感じその店の客単価に最大限の貢献をした。所謂ついで買いである。

そんなソーセージをサイドメニューとして販売する超人気店2店舗とイベントで隣り合わせになった時の話である。

営業前、話し声が聞こえてきた。

『店長、この間ソーセージについてお客さんに国産ですかということと、小麦や玉子は使ってないですかと聞かれました。』(アレルギー物質の有無)

『特別に作ってもらってるので安心してくださいって言っとけばいいよ。』

『国産という事でいいですね。』

『(俺たちも)分からないからいいよ、小麦や玉子は他のもの製造するときに使っているかもしれないので分からないって言っとこう。』

とても軽い感じの店長は笑い飛ばした。

バックヤードには当然、そのソーセージが、販売されているパック詰めのまま転がっていた。

業種を言えば特定できるので言えないが、キッチンカーでもテントでも販売している超人気店で東海地区なら知らない人はいないだろう。

もう一店舗も東海地区ではかなりの人気店だ。

同じく、何を販売しているか書けばすぐにどの店か特定できてしまうので、省略する。

こちらも同じソーセージを販売している。炭焼きでいかにも『手作り』を表現する。

それ以外にも目に余るところがあった。メインの商品に欠かせない野菜が地面に置かれた段ボールに転がっていた。無くなったら使用するのだろうが、この時はテントでの出店。スーパーで買ってきたばかりのレタスはその状態のままでラッピングされている。

どこで洗うのか?

その疑問は最後まで消えなかったが・・・きっと洗わないのだろう。そもそもそんな設備は簡易なテントにはないし、その行為は保健所的にもNG。

この類のソーセージの売価は300円位(250円から350円くらい)で販売されることが多い。消費者からすると太く大きくボリューミーで、見た目にもコスパが良い。

コスパが良いのは消費者にとってだけではない、最終販売者にとっても圧倒的な利益を生み出す。90円にも満たないそのソーセージは300円に変わるのだから。必死に作るであろうメインの商品よりも効率よく儲けが出る。ただ買ってその場で焼けば良いのだから何の手間もいらない。

どれだけ儲けられたかだけがテーマで消費者に何かを伝えたいとかそういった事は微塵も考えていないだろう。

隣り合っていると味噌も糞も同じなようで何とも残念な気持ちになるのであるー


燻製庫の後ろに立っていたロベルトの年上の同僚と挨拶を交わす。

先回話に出てきた口うるさいマネージャーではなく、とても気さくなおじさんといった感じの恰幅の良い男だ。テーケ(Theke販売カウンター)には肉からマリナーデ(味付け肉)、ソーセージがたくさん並んでいる。さすがにカウンターに入りお客さんの目の前には出られないので、外側に回り案内を受ける。

改めてみた売り場は巨大なラビリンスだった。

対面販売のショーケースを脇に見て、まず向かったのはずらりと鎮座する冷凍・冷蔵ショーケース。

1・2・3・4・・・・

ロベルトの説明を聞きながら自然に歩幅で計測している自分がいた。

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