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英文法授業レシピ1 仮定法③

①では中学校での基本的用法を、
②では高校での仮定法過去完了を紹介しました。
今回は、仮定法現在(should / were to)の指導方法を紹介します。
これは実際の授業でやった内容で生徒からは「なるほどー」という声がしっかりでてきました。

今回もGrammaringと認知比較の原則に則り状況の設定と似たような文を提示します。

想像してください。ネットショッピングで欲しい商品を見つけた。日本では販売しておらず、海外からの輸入品となる。購入後にメールが届きました。どちらのメールが企業として適切でしょう?

① If our item is broken, you can let us know it from here.
② If our item were broken, you could let us know it from here.
hereにはリンクがあると想定。

もちろん、①は直説法で②は仮定法です。生徒は悩み友人と相談します。
一通り彼らの中で結論めいたものが出てきたら解説です。

①は直説法だから、壊れている可能性が十分あるんだよね。「たぶん壊れてるから、そん時はよろしく!」みたいな企業で買い物はしたくないよね。
①を選んだ生徒は笑いながら、「たしかにー」

②は仮定法だから、壊れているという現実はあり得ないんだよね。つまり、商品の故障は企業の責任でなく、購入者の側にある!くらいの強気だよね。「絶対壊れてませんけど?」みたいな。高圧的すぎるよねー。
②を選んだ生徒は笑いながら、「たしかにー」

生徒:ん?じゃあどっちもダメってこと?

教師:ダメとは言わないけど、企業としては不信感を抱かせるよね。
日本語のメールだったらどんな言葉がついてくるかな?

生徒:もし~、じゃ弱いってことだから…万が一とか?

教師:そうだね。普通は壊れていませんよ。でも、万が一…くらいの低姿勢が企業には望ましいんだね。その表現も仮定法で表せます。
"If our item should be broken, you could let us know it from here."というんだ。

最初に誤答の選択肢2つしか与えないというところがポイントです。
認知言語学ではnoticing(気づき)という概念も重要視しています。
重要な表現などに気付くことも大事ですが、自分の知識の欠落に気付く(noting a hole)や自分の知識と模範的知識との差に気付く(noticing the gap)も学習には有益だと説かれます。

最初に与えられた誤答が現在彼らが有する知識です。
しかしこの知識だけでは表現できない状況を仮想体験させます。
そうすることで、差に気付くわけです。
いきなり「If S should ~はね…」と説明するより定着しやすいです。

教育的には好ましくない事例だと理解していますが、身近な別の例を。
高3後半ともなると自主的にお休みされる生徒もいます。
そんなA君がたまたま出席していた授業で、この仮定法が指導項目の1つだとします。

「もしA君が来週休んだら、大事なテスト受けられないね。」
"If A-kun (    ) absent next class, he (     ) miss taking an important test."

生徒には( )に適切な語句を補ってもらいます。

ここで直説法だったら?A君が休むとこちらが想定している、と暗に示すことになります。
ここで仮定法過去だったら?万が一の体調不良すら許されない、と暗に示すことになります。
ここで仮定法現在だったら?休まないだろうけど、何が起きるかわからないもんね笑

みたいなことをちゃんと説明すれば、その違いも明確です。
そして、生徒によって答えが変わるでしょう。それでいいんです。
なぜなら起こりうるか否かは話者の価値判断だからです。

このように機械的な練習だけでなく、意味処理や価値判断の一部を生徒にゆだねる練習(meaningful practice)の機会を担保することで、彼らにFormだけでなくMeaningやUseまで処理することを促せます。

今日のポイント
できないことに気付かせよう(noticing the gap)

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