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タイムスリップコップ②/#毎週ショートショートnote

その傷だらけのコップは、未希が嫁いだ芳井家の仏壇に祀られていた。未希の夫の祖父が南の島に出征した際に携帯したものである。彼は戦死しコップだけが帰ってきた。底に名前が書かれてある。

毎朝コップに水を満たし供える。未希はコップを一目見て感じるものがあった。御挨拶をと、コップの水を入れ替え位牌の前に置き手を併せた。その夜。ザー……大きな音で目が覚めた。豪雨らしい、が、音は仏壇部屋からする。部屋を覗くとコップの上部がぼんやり灯り、その灯りのなかで激しく雨が降っていた。未希は部屋にとって返し夫を起こした。夫にも見て貰うが異変は無い。朝食時、恐る恐る言ってみるが義父母も信じてくれない。が義祖母だけは黙り込んでいる。

その夜また気配がして目が覚めた。音はしないが気配はやはり仏壇部屋からする。未希は呼ばれるような足取りで向かった。仏壇の前が仄暗く灯り、若い男が正座をし首を垂れていた。男の方角からあたたかな空気が未希の足に届いた。不思議に怖くはなかった。

翌朝話したところ義祖母が言う。「いいかげん離れたいのかもしれへんね」。コップは菩提寺で引き取り供養して貰う事となった。


(481字)

たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。
すみません。かなり字数オーバーしてしまいました💦