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NHK文芸選評への投稿作・6月

自作を載せてない回は、出しそびれました。。

6/1 俳句 選者:阪西敦子先生 兼題:金魚
叱られて田んぼに流す金魚かな
景品は金魚要らんと言えんわな
大雨のどぶを流れてゆく金魚

すぐ死ぬと云はれすぐ死ぬ金魚かな
神奈川県 横浜J子さん

おお、身も蓋もない。夜店で子供が釣った金魚。「どうせすぐ死ぬのにこんなもん買ってきて!アホやなあ」とお母さんに小言を言われ、本当にすぐ死んでしまった。でも、いいのです。かような悲しい経験を経て、生き物は全て死ぬものと子供は悟るのですから。余談ですがどんなに小さな亀でも決して金魚と一緒にしてはいけません。子供のころ金魚と銭亀を別々の水槽で飼っていました。金魚は体長4~5センチ、銭亀は子供で同じ位の大きさです。掃除をするので一緒のバケツに入れました。20分位してバケツをみたら5匹いた金魚が全部亀に食いちぎられてぷかぷか浮いていました。小さい亀だから大丈夫だろうと思った私は浅はかでした。金魚にかわいそうなことをしました。

そんな昔を思い出しました。そっけない詠みぶりに心惹かれました。俳句や短歌でも箴言、格言っぽい作品って私は好きで、自分でもよく詠みます。好きな格言はたくさんありますが、例えばこんなやつです。短いほうが覚えやすくて好きです。

らしくあれ (オスカー・ワイルド)

人生に失敗がないと、人生を失敗する。 (斎藤茂太)

恋。 普通の娘を女神と間違うこと。 (メンケン)


一匹になつても隅にゐる金魚
島根県 GONZAさん

広くなった水槽のどこに行ってもいいのに、これまで通り隅にいる金魚。作者様はそんなつもりで詠まれたのではないと思うのですが、この句も格言っぽい。そして、自分みたいな金魚やなあと、心に響いた。・・・


6/8 短歌 選者:笹公人先生 兼題:お土産

あのときは気づけなかった標本のオオルリアゲハの鮮やかな青
福島県 青糸りよさん

オオルリアゲハはニューギニア等の熱帯雨林に生息する蝶。南国を旅した人からオオルリアゲハの標本をみやげにもらった。その時はなんだこんなもの、違うものが欲しかったと思った。でもいま、標本を眺めていて蝶の美しさに気づく。審美眼が養われたのは作者が短歌を始め、ほかいろんな文学、アートに触れたからでしょうか。おみやげってほぼ「失くす」のが前提の品物。でも、長年を経てから渡った相手に愛でられて、幸せな蝶ですね。

青×黒、似た色合いの蝶に日本ではアオスジアゲハがいますね。子供の頃、とあるお寺の庭に群れているのを初めてみて、あまりの美しさに息がとまりました。もう何度も同じことを書いている気がしますが笑、自然界の色って本当にすばらしい。生物だけではなく山、雲、雨、すべての自然物が。たとえばこのキアゲハ、黒×黄×青だけでもじゅうぶんきれいですが(濃淡の具合も絶妙)、オレンジのふたつのぽちぽちがあることでデザインが締まってみえる。誰ですかここにオレンジのぽちぽちを置いた天才は!


6/15 俳句 選者:小野あらた先生 兼題:蝸牛


石棺を千の蝸牛の濡らしけり
東京都 内藤羊皐さん

石棺を蝸牛が這う跡のきらきらが、真っ暗だから見えないはずなんだけど、見えてきます。この無気味さはなんなのでしょうか。梅雨時の埋葬。古い時代の建築だから石棺も古墳自体も隙間があって、小さい蝸牛なら内部に侵入できたのでしょう。死臭にさそわれてわらわら這っていく千の蝸牛。あるいは、中に閉じ込められた数匹が長い年月をかけて交配しつづけ、増えていった。被葬者を食して。・・・瞬時に映像が浮かんで、ぞっとしました。



6/22 短歌 選者:岡野大嗣先生 兼題:かけら
見回して誰もおらぬを確かめてサンドのかけら猫にやるなり
けしからぬ奴だが親近感のわく本に爪くず忘れてますよ
A6のノートの言葉のかけらたち猫、好き、パンが多くて笑う


掘り上げし男爵いものどのようなかけらも残さず収穫したり
埼玉県 長谷川文彦さん

暑い時期寒い時期、苦労して作った作物は自分の子供にも等しく、どんな小さなかけらでも残すことはできない。ガツンと来ました。そうですようち農業してたのでめっちゃ分かります。野菜作ったり牛育てたりは天候読んだりどの農薬撒いたらいいか頭脳・知性が高くないとぜったい出来ませんってあの知事に言ってやりたかったですね。辞職の際に細川ガラシャの辞世の歌を引き合いに出してましたが自作を詠めばいいのに。知性高いんだから。それがたとえあんまし巧くなくても、「ああ、自分で考えたんだな~」ってわたし心動きましたよ。とはいえ、例の訓示を全文読むと良いことも言っておられます。「上にへつらってはならない、下に威張らない」「人の艱難はこれを見捨てない」とか。気になる方は検索して読んでみて下さい。


6/29 俳句 選者:藤井あかり先生 兼題:蟻
蟻潰す鉄幹の背のうすきかな
足裏より蟻立ちあがりまた歩く
砂糖壺上陸したり蟻一兵

一句目は本日文芸選評ラジオで放送していただきました!
藤井先生ありがとうございます!😄


水盤に蟻がいるまだ生きている
熊本県 夏雨ちやさん

花についていた蟻が逃げようと水盤の水に浮いている。手足を動かして、あるいはじっと、諦めたように浮いている。はたして無事に水盤の縁にたどりつくのか。冷静な観察眼に惹かれました。この光景を子供の頃、よく見ました。砂糖壺を蟻から守るために水を張った空缶の中に入れておくんですね。ところがいつの間にか入っている。蟻の食い意地、生命力は怖ろしかった。同時に、ちょっと感動しました。

我の子が傷つけし子の夏帽子
藤井あかり

子供同士の喧嘩で傷つけたり傷つけられたり。傷つけたのが相手じゃなくて自分の子、と詠むのはなかなか気合い要るのではと思うんです。申し訳ないと詫びていると、その子の帽子がやけに印象的にうつった。ショッキングな出来事があったとき、ぜんぜん関係ないものを憶えているって、私あります。このひと変なところにほくろあるよなあとか。意識をそっちに向けて耐えていたのかもしれません。

青葉騒栞の少し前から読む
藤井あかり

そうそう、読んでいた続きの少し前から読むんですよね。そうして徐々に物語になじんでゆく。日常とかけはなれた物語世界のドラマチックさが、季語・青葉騒とひびきあっています。

※追記。失礼しました! 季語は「青葉」ですね。青葉騒は子季語と思い込んでいました。青葉騒(あおばざい)青葉が風に吹かれて音を立てる。俳句でみかけるこういった略の仕方、少ない字数でイメージ喚起させるの見事だなあといつも思います。