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界のカケラ 〜37〜

 「だが、そのために人に危害を与えたり、命を奪うことはしていけないがね。そういう感情は中毒のように頭の中に残る。そしてどんどん行為がエスカレートしていき、頻度も多くなる。快楽的になって行くのだよ。そして何も感じなくなる。私も経験したことだからはっきり言える。連続殺人鬼がいい例だ。だから制御する必要性があるし、静止させる人間が必要なのだ。放っておくと絶対に止まらないからな」

 「戦地でそれを経験している生野さんにとっては赤橋さんですか?」

 「そうだよ、四条さん。だから心が壊れずに済んだ。だが昔も今も戦争でも同じような境遇をした人たちはいるが、心に病を抱えてしまった人は大勢いる。その違いはよくわからない。戦争の仕方や武器が変わってしまったことも要因の一つだと思っている」

 「人間は個体だと肉体的にも精神的にも弱い部分が多いですからね」

 「ああ、だから集団でいることを昔から続けているし、これからもそうだろう。それゆえに集団の恐ろしさも続いていくだろうよ。攻撃的な例だが集団になれば何でもできるという勘違いから大きなことをやろうとする。そして歯止めもそれに比例して効かなくなる。歯止めをするにはそれ以上のことをしなければいけなくなる。
反対にパニックになることもあるな。これも同じように歯止めが聞かなくなり、周りに伝染する。そうなると周りが見えなくなり攻撃的になったり、自分の殻に閉じこもってしまう」

 「人は攻撃的にも悲観的にもなりうるということですね」

 「ああ、多くの人は正常な状態で生きているという定義をするが、実際にはこういった状態も生きているということに目を向けようとしない。むしろ避けたがる。

 病気もそうだ。病気になった原因は生きている状態を自覚しないで好きなものだけを食べたり、寝不足だったり、本来の人間のリズムと食生活を忘れてしまったから起きてしまう。

 さらに言えば、自分が本当に心から望む行動をしていないと病気になりやすい。これは生きるという目的を思い出させるためのものだと余命宣告されて、闘病のための入院している間、色々な人と話してわかるようになった」

 「普段の生活が病気になりやすいというのは理解できます。でも心から望む行動をとっていないと病気になりやすいとはどういうことですか?」

 私は医師として興味が湧いていた。普段、容態観察で担当した患者さんに話を聞くことがあるが、私生活までには踏み込んでいない。全員が全員話すわけではないし、話さない人の方が多い。だから上辺だけというと語弊があるが、表面的な質問などに限定しがちだ。

 もしかしたら生野さんの話を聞くことで、病気を根本的に捉えることができるかもしれない。私は少し期待しながら聞くことにした。

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