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雑感88:プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン - 実績・省察・評価・総括 -

西暦2021年、満を持して公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は、コロナ禍のもとで2度の延期や上映制限を余儀なくされたにも関わらず、劇場鑑賞者数約673万人、興行収入102.8億円という大ヒットを記録しました。同作の制作にあたっては、庵野秀明総監督の目指す表現を追求するために、既存のアニメーション制作の常識にとらわれない、異例の手法が数多く用いられました。

この、巨大かつ規格外のプロジェクトは、いかにして完成に導かれたのか?

本書は『シン・エヴァ』を制作した株式会社カラー自らによって、プロジェクトとしての『シン・エヴァ』を振り返る公式報告書籍です。

カラー社内外のクリエイター、プロデューサー、経営者総勢9名へのインタビューを敢行し、「プロジェクト」を様々な視点から語る証言を、6万字を超えるボリュームで掲載しました。
また、総監督及びエグゼクティブ・プロデューサーの庵野秀明のインタビューも収録、前代未聞のプロジェクトの姿を浮き彫りにします。

本書は、プロジェクトという観点から『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を総括するとともに、アニメーション制作に興味のあるかたや、業界を問わずプロジェクトの推進に携わろうという方々にも大いに参考になる書籍です。

amazonより

紹介文の通り、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を一つのプロジェクトとして評価・総括している本です。

冒頭で、著者の前職はJAXAだったと書かれており、ふむふむ日本の宇宙科学の最前線(?)でプロジェクトマネジメントに触れてきた方なのだろうか、などと勝手に想像し、読み進める前から本書の構成に妙な安心感を持ってしまった感は否めなかった。

私個人の雑感としては、プロジェクトとしての定量的・定性的評価は一人のエヴァンゲリオンファンとして非常に興味深かったが、それ以上にインタビューから浮き彫りになる庵野秀明のマネージャーとしての資質に驚かされた。

いくつか印象に残った箇所があります。

昔は、庵野はさっさと自分で描いて解決してしまう人だった。今は手間と時間をかけて付き合う。自分だけでは起こらない何かが起こるのを待っている。そのために付き合う、ということだと思います。

内部評価 前田真宏(P.146-147)

庵野さんは人が好む要素についての分析が済んでおり、その組み合わせを駆使してなるべく多くの人に訴求する画面を作っているのです。つまり庵野さんの作り方は工学的で、マーケティング思考です。

外部評価 川上量生(P.193)

指示したものを指示どおりに仕上げるのではなくて、指示どおりにしなくて全然構わないから、自分自身がもっと面白いと思うものを考えて出してほしいとスタッフには伝えています。

プロジェクト総括 庵野秀明(P.253)

大変失礼なことですが、勝手ながら庵野監督はアニメオタク・特撮オタクのおじさんとしか思っていなかった。昔NHKで「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見た時も、ストイックにベストを求め続けていてすごいなあ、周りの人たちは大変だろうな〜くらいにしか思っていなかった。

しかしその中身はまさにプロジェクトマネジメントで求められるコスト・納期・品質のバランスを十分によく見定めながら、アニメに工学的にアプローチし、その辺の商学部卒のサラリーマンなんかよりよっぽどマーケティング思考であり、一方で周りの関係者の能力を最大限発揮できるように振る舞っているという、なんとも超人的な人物であった。

これはすごい。超人というか、万能人か。

その辺の汎用的なマネジメント啓発本と違い、実際のプロジェクトを通じて、そして様々な方のインタビューを通じて庵野秀明のリーダシップやマネジメント論が浮き彫りになっていく構成です。エヴァンゲリオンファンとして、一人のサラリーマンとして非常に興味深く読ませていただきました。

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