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下僕の花道

下僕(げぼく)とは
召使いの男。下男。しもべ。

goo辞書より

花道(はなみち)とは
世の注目称賛が一身に集まる華やかな場面
特に、人に惜しまれて引退する時。
引退の—を飾る」

goo辞書より


俺には気の狂った友人がいて

ゆみちゃんていうんだけど
あ、言っちゃった、まぁいいか

そのゆみちゃんはね
俺のことを下僕だと思ってる

ゆみちゃんは

例えば

山ちゃん、コーヒー飲みたいんだけど
淹れてもらっても、いい?

とは言わずに

美味しいコーヒー淹れてくれる?

と、なぜか上目線

なぜか?

それは俺が下僕だから

私好みのコーヒーくらい
下僕なら淹れられるわよね?
ってメタが含まれているわけ

昔、クマみたいなトレーナーに捕まって
3年間も、ひどめにあった
2度と筋トレしない


ずっと前に、俺の甥っ子(兄の長男)が
嫁さんになる彼女を連れてくるって時に
ちょうど俺がその場に居合わせてしまって

どんな顔したらいいの分からないなぁ
みたいなことをSNSにつぶやいたら

ゆみちゃん:
え?
叔父さんが同席するって
普通ありえない
甥っ子さんにかわいそうだと思わないの?

って、俺が投稿したばかりなのに
秒でコメントが入った

誰も同席するなんて言ってないのに

でも俺は下僕だから
そう言われても仕方がないわけ

紫陽花ボール
作り方は簡単なんだけど
いくつかポイントがあって
それだけ分かれば、誰でも上手にできる
紫陽花は水が大好きだ
ということを
忘れちゃいけない

物事は、その対象のひとつだけ特徴を掴むと
驚くほど上達できることがある


うちの理事長宅の庭には
初夏の頃、紫陽花がたくさん咲く
今年もきっと美しい限りだろう

そこで俺は理事長宅から
美しい紫陽花をバツバツと切り落とし
紫陽花ボールなるものを
仕事もせずにせっせとこしらえて
あちこちのセクションに配ってまわった

そんな紫陽花ボールは評判となり
あまりに高評価だったので
気をよくした俺はSNSにアップしてしまった

するとやはり

SNSのみんなが褒めちぎってくれたんだけど
ゆみちゃん、それが気に食わなかったのか

その紫陽花の花束みたいの
山ちゃん、花だと思ってるみたいだけど
実は、がく、だって知っていた?

と、エッジの効いたコメントが入った
(ゆみちゃんは、い抜き・ら抜き言葉にも厳しい)

これは、みんな褒めてるみたいだけど
紫陽花に関しては
山ちゃんより私の方が詳しいのよ
というマウントが含まれているんだ

と、俺は瞬時にそのことを悟った

紫陽花のがく
なことくらい俺でも知っている

だけど

ゆみちゃん、詳しいんだね
俺てっきり花びらだと思っていた
教えてくれて

あ"り"がどゔ

と、コメントを返した

なぜなら?

なぜならって

俺はゆみちゃんの下僕だから

下僕は、下僕の道を進むしかない


ある街で、ワークショップをした時
来なくてもいいのに
ゆみちゃんが参加してくれた

参加者に、これから実践することを
俺が説明していたら
ゆみちゃんはいちいち
参加者へマウント取り出したんだ

山ちゃんは、私の下僕なの

とは言わなかったけれど
要は、そう言いたかったんだよね

さすがの俺も
なんてだらしない女なんだろうって思った

そしてランチの時
みんなで弁当を買ってきて食べたんだけど

ゆみちゃんだけ、自前の弁当でね

自前とはいっても
半透明のタッパーに冷製パスタ?が
こんもり詰めてあるものだったんだけど

汁が出切ってて、トマトはクタクタ
水菜がパスタにねっとりついていた

まぁ、朝に作ったら誰が作ってもそうなるわな
と、俺は横から見ていた

横から?

あぁ、だって俺の横
ゆみちゃんが陣取ってるんだもん
見たくなくても、見えちゃうんだよ

すると

ゆみちゃん:
山ちゃん、私はもうお腹いっぱいだから
残り、あげる

と、言ってきた

つまりはこうだ

初めから俺に食べさせたくて
作ってきたが
とっつきにくいので
自分はお腹いっぱい食べたという体にして
残りを俺に食べてもらい
俺の美味しい!を頂こう、という算段だったのだ

とはいえ、食べかけだ

食べかけが食べられないほど神経質じゃないが
俺は天丼を食べているし
ゆみちゃんの手作りは、すごく嫌だった

ゆみちゃん:
ミニトマト
うちの農園から採ってきたやつ

プランターのトマト栽培を
うちの農園っていうあたりも、ゆみちゃんらしい

なので、正直に

俺は天丼でお腹いっぱいになるから
いらないよ、と断った

その通りだった

でも

この返事は、やっちゃダメなんだって
あの時気づけなかったんだ

意地になったゆみちゃんは

自分が使っていた箸をタッパーの上に置き
左右の親指で箸を固定して
両手でタッパーを抱えて
ぐいぐいと、冷製パスタを
俺の方に押し込んできたんだ

その一部始終を見ていた主催者が

ゆみさん、そのくらいに
と言ってくれたんだけれど

私と山ちゃんの仲だから大丈夫
って、主催者にちょっとムッとして
跳ね除けてしまった

下僕は

ゆみちゃんの箸だけは避けて
自分の割り箸でトマトとヤングコーンを
食べざるをえなかった

もちろん、味なんかしない
嫌すぎて感覚を
シャットダウンしてたんだと思う

ゆみちゃんはそんなのお構いなしに
ぐりぐりの目玉を左右に細かく揺らして

味付け、いけるでしょ?
と、俺に迫ってきた

この人は、本当にすごいなって思う

だから下僕は言うさ

すごく、、、美味しいよ

この医者の左手
あんなになったら、生活に支障がでるに決まってる
それ、30センチだろ
ズボンはけねぇーだろ


昔から、俺は嫌われたくないがために
人に迎合してきた

筋肉熊のトレーナーと契約してしまった時は
言われるがまま
食べたくもないゆで卵を
毎日10個食べていた

逆さに吊るされたり
両足持たれて宙に浮いたままベンチプレスしたり
恐怖しかなくて
何でも言うことを聞いてしまった

催眠術の先生からは
部屋が洪水になる暗示をかけられて
溺れ死ぬのが怖くなり
レンタル室のビルの管理室に
緊急の内線かけちゃって大事件になってしまい
先生を大喜びさせてしまった

そんな俺だから
ゆみちゃんの下僕にもなった

ことにゆみちゃんは

特殊フィラメントのように、脆い
と知ってるからこそ
ますますそうせざるを得なかった


ナニになに仕込むつもりや!



すっごく寒い冬の夜

ゆみちゃんとゆみちゃんの旦那と俺で
炉端焼きの店に行った時
俺と旦那が楽しく酒を酌み交わしていたら
酒を飲まないゆみちゃんが

旦那の両親の長年の恨みつらみを
話し出した

その時、あ、俺はこのために釣られたんだ
と、思ったが時は遅し

俺も旦那も、あまりの豹変ぶりと
その内容の陰湿さに、卒倒しそうになった

酒も飲まないのに
あんなオーラで他人を侵食できるなんて
大魔王しかできない、と確信した

そう

俺は大魔王さまに、仕えることができて
幸せ者だったのかもしれない

これこそ、下僕の花道
俺の道

まだまだ
闊歩してもよいではないか

#なんのはなしですか

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俺にとって、ゆみちゃんはただものじゃない

じゃーねー


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