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僕は君の翼に、なれなかった

コロナが流行る前のクリスマスに
生まれて初めて
教会のミサに参加したことがある

クリスマスっていうのは
イエス・キリストが誕生した日であって
恋人同士でちちくりあうような
性欲まみれの日ではないんだろうな

と、信心深い『俺』は
うすうす勘づいていたからだ

クリスマスは
恋人同士でちちくりあう夜だなんて
日本だけの話だそうで
海外では家族単位の
複数でちちくりあうらしい

いや、そうじゃない

生きとし生けるものへの労いと
家族をはじめとする世界に向けて
平和と静寂(しじま)を祈るのが
本来のクリスマスなんだそうだ

聞くだけで
イエスの御胸に抱かれている
気持ちになってきた

ラファエル降臨


さて、話はクリスマス

僕の友人のひとりに
ゆみちゃん
という敬虔なカトリック信者がいる

クリスチャンたちは
日本式クリスマスを
どう考えているのだろう

ゆみちゃんは、クリスチャンである前に
気が狂(ふ)れているので
あまり参考にならないかもしれないが

どんな思い出があるのか
どの教会に行ったらいいかくらいは
教えてくれるだろうと思い立ち
あの日、連絡を取ったのだった

案の定

月並みなメッセージを送っただけなのに
速攻で、通話がきた
メッセージでやり取りして欲しかったのに
その後2時間も
被害妄想を聞かされてしまったのだった

ゆみちゃん、ギブアップ

ゆみちゃんの人となりが分かります
ザックリですが、良ければ参考までに

↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

ゆみちゃん:
わたしね、クリスマスのミサの前にね
自分の詩を先生(神父さん)に
見てもらったことがあってね

もう1時間以上、話しているのに
終わる気配が全くない
この人に気遣いという美徳は皆無らしい

ゆみちゃん:
先生、わたしの詩を見終わった後
あなたの独りよがりが過ぎますって
まさか先生が
そんなこと言うなんて思ってなくて
ショック過ぎて
その場で号泣しちゃった
今、教会を変えるかどうか真剣に悩んでるの

もう皿を洗ってもいいかな
晩飯後で、片付かないんだ

ゆみちゃん:
そうだ、今度、山ちゃん家で
みんなでご飯食べながら
キリスト教の話をしましょうよ
山ちゃんに、その詩も読んで欲しいから

山ちゃん:
神父さんに
独りよがりが過ぎるって言われた詩?
お、俺にその詩の良さ、分かるかなぁ

要は、自分の賛同者を集めて
神父(先生)を否定したいだけだ

がしかし、俺の心のうちでは
早く通話を切りたい、という願望と
聖職者が信者に面と向かって
辛辣なことを言うほどの
詩とやらを見てみたい気持ちがあったので

分かった、みんなに声かけてみるよ
と、返答してしまったのだった

その翌週末、ゆみちゃんと
友人3人を招いて
ちょっと早いクリスマス飯会を
開催したのだった

友人たちは、また
悪魔のぬいぐるみプレイが見られるとあって
(↑のリンク先の記事に書いてあります)
2つ返事で承諾してくれたのだった

コロナになるまで恒例だった
クリスマス飯会
ゆみちゃんは電車できたので
ラチ子とウサミは留守番だった


驚いたのだが
ゆみちゃんのクリスマス会なのに
食事の前の祈りは省略していた

この人、本当にクリスチャンなのだろうか

ゆみちゃん:
このどら焼きはね
どら焼きが嫌いな人ですら
好きになるどら焼きなの

食事がひと段落し
みんなでお菓子を頬張っていた

ゆみちゃんのオンステージは
聞きなれない言葉ばかりで
何を話しているのか分からなかったが

キリスト教の始まりから現在までを
ダイジェストで話してくれたようだった

そして、ゆみちゃんは
無類のお土産好きでもある

今回は、地元で有名などら焼きを
みんなの分、買ってきてくれていた

がしかし

俺は、ピータンと餡子だけは食べられない
その旨を伝えて
俺の分はみんなでどうぞ、と言った

でも、ゆみちゃんには硬い信念がある
このどら焼きは、嫌いな人も好きになる
どら焼きなのだ

本当に、勘弁して欲しかった

何度断っても、その信念は曲げられず
まわりの雰囲気も焦げつきはじめたため
致し方なく、俺はどら焼きのはしを口にした

わたしの思いが分かるでしょ?
と、どら焼きを食べる俺の横顔に
せまるゆみちゃん

何度もあげそうになってる俺に

美味しいでしょ?と
クローズで聞いてくるあたりは

間違いのない狂気(ファナティック)だ

俺は白目を充血させながら
うん、美味しいかも、と言ったら

ゆみちゃんはさらに気分が良くなって
自分の食べかけのどら焼きまでも
よこしてきたのだった

喰いかけよこすんじゃねぇ

友人が3人もいたのに
誰も、手助けをしてくれない

むしろこの居心地の悪さ
できることなら、山ちゃん早く死んでくれ
と、言わんばかりの雰囲気だった

飯会は、16時頃には解散となり
友人たちは早々に引き上げていったが
ゆみちゃんだけは帰らなかった

そうだ、まだあの詩を見ていない
そうかみんなに、あの衝撃を公表していないのか
あんなに文句言うのが得意なのに
相手を選ぶこともあるのだと、ひどく感心した

ゆみちゃんにとって俺は
手下みたいなもんだから
話したところで何とでもなる
と思ったのだろう

ゆみちゃん:
山ちゃん、美味しいコーヒー淹れてくれる?

美味しいって、言っちゃうんだ
と、図々しさに笑いながら
俺は奴隷のように
美味しいコーヒーを淹れて
マグカップを手渡した

天使は絶滅した

ゆみちゃんは、コーヒーを啜った後
声のトーンを低くして

読んでみて

と、A4サイズのスケッチブックを
静かに手渡してきた

こ、これが
聖職者すら読むことを拒んだ
悪魔のバイブル

恐る恐るスケッチブックを開いた、ら

な、何だこれ?

卒業式の寄せ書きのように
四方八方にぎっしりと
何やら文字が書いてある

ぎっしりとだ

あああああああああ(泣)
見るのも嫌だ
何これ、えんぴつの白黒で気持ち悪い

の、呪いだ

俺の心は力いっぱい瞼を閉じている
見続けていたら
白目と黒目が逆転しそうだ

そして、一番気になったのは
ゆみちゃん
なんでこんなに字が汚いんだ!

乱雑過ぎて
どことどこの文が繋がっているのかも
まったく分からない

翼、太陽、永遠、さざ波、風、木陰
ステンドグラス、星のかけら

少女漫画のようなキーワードが
目に入ってくるが
まったくもって物語が見えない

俺があらゆる意味で
ショートしているのが
誰でも分かると思うのだが
ゆみちゃんには
まったく伝わらなかったらしい

次のページ

そうつぶやき
俺に、次のページを促してきたのだった

まるで、次のページで
すべてがつながるわ
と、言いたげなそのほくそ笑んだ顔

俺は奴隷のように言われた通り
次のページを開くと

真っ白なスケッチブックの
中央よりちょっとだけ左下に

僕は君の翼には、なれなかった

と書いてあった

な、な、何も繋がらない
何が何だか分からない
誰か助けて

俺はゆみちゃんをチラッと見ると

ミステリー探偵のように
分かったでしょうと言わんばかり

ゆみちゃんは大きく頷いたのだった


山ちゃん:
そっか、、、
先生(神父さん)、ミサで忙しくて
分からなかったのもかもね

僕は、必死の限りを尽くして返答した
分からないのは

俺も同じだ

ゆみちゃん:
先生はきっと、過去の傷が疼いて
つらかったんだと思う

先生の何を知ってるのか知らんが
ゆみちゃんは俺の感想なんか無視して

聖母のような顔をして
謎の頷きを繰り返している

こ、この辺で切り上げないと
俺がまったく理解できてないと

バレてしまう

それだけは避けたい
バレたら
Facebookに実名で晒されてしまう

逆鱗に触れるのを覚悟して
パタン
とスケッチブックを閉じ

ところで、市内で敷居の低い
行きやすい教会ってどこかわかる?

と、たどたどしくも
会のしめに入るよう
俺は賭けに出たのだった

ゆみちゃん:
あぁ、そうそう探してきたよ
ニューポープっていう教会は
オシャレな洋風の家みたいで
入りやすいんだって

ゆみちゃんは俺の話題を
すんなり受け入れてくれて
ちゃんと教会も前調べしてくれていたのだ

良かった良かった

山ちゃん:
電気、つけるね

電気の灯りで
我々は宵闇から解放されると
ゆみちゃんはおもむろに腕時計を見る

俺は気持ちが軽くなった
これで終わる、山ちゃん!よくやった

ゆみちゃんはパタパタと帰り支度を始め
早々に玄関に向かったのだった

帰り際に聞こえたMerry Xmasが
今も耳から離れない
すべてが一方通行だったのに
どうしてそんなに笑顔なの、ゆみちゃん

僕は

君の翼には、なれなかった

そ、そうか

そうか、ゆみちゃん!

このことだったのか
稲妻が俺の体を貫くように
すべてが繋がったのだった

ぜったいに、君の翼にはならない!

俺は翌日
念入りに拭き掃除をした

Merry Xmas!

雪の道しるべ
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