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父の足、母の手

その足は、たくましくあくせく働いた
その手は、正確で繊細に働いた

測り知れない後悔と
せめてもと願う思いをのみこんで

もう、父は何も言わない
母も、言わない

正月なのに
いつもの朝飯がいいと言う
焼き鮭に、白飯と味噌汁

漬け物は、嚙み切れないから
いらないと言う

楽しみにしていた年賀状も
元旦に必ず見たい
というわけでもなさそうだ

それよりも
陽射しの中で
横になって目を閉じて
静かな時間の流れに
身を任せていたいらしい

その人生で
つかみとったたくさんの物事を
ひとつひとつ、手放してゆくように

ずいぶん前から、膝が軋んで
ずいぶん前から、手が震えだした

今は一緒に
ただ一緒に
元日の陽ざしを浴びながら
煮干しの頭とはらわたを落とそう

ふたりが身をかがめ
少しずつ自分の中に入ってゆく
その前に

この世を作り上げた
あの漲る広がりの分だけ
小さく小さくまるくなって
奥深くに入ってゆく、その前に

無防備だった父の足の裏を
子どものように、くすぐってみた


なんだ

あきら

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