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「写実」で書き換えてみよう【文章術072】

本noteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うためのポイントを解説し、練習課題を出していく。

今回は、単調な原稿を避けたいときのアクセントとなるテクニックを紹介したい。初心者にとっては、文書術としてのトレーニングにもなると思う。

ありきたりな文を「写実」的なアプローチで書きかえる

「写実」や「象徴」といった概念・技法は、本来は文学作品などで使われるものだ。筆者のようなクライアントワークがメインの商業ライターからすると、あまり縁のないテクニックである。正直に言えば門外漢だ。

しかし、そんな立場の人間でも、“テクニック”として知っていて役立つ。たとえ付け焼き刃でもだ。たとえば、エッセイ調のコラムやレポート記事を書く際などには、書き出しなどで印象的な効果を発揮する。

例えば、以下のような文章があったとする。

例)夕食を食べた直後だが、まだお腹が空いているので、バナナを食べようか悩む。しかし、ここのところ肥満気味で、カロリーが気になるので、我慢しようと思う。

まず、これが主観的な書き方だとしよう。筆者(または作中の登場人物)が、頭の中で考えたことを羅列しているようなものだ。

決して変な文書ではない。しかし、退屈だ。これでは読者は引き込まれないだろう。

今回は、この文章を「写実」的なアプローチで書き換えてみる。主観ではなく、映像的な事実を淡々と伝えるわけだ。

例)午後7時、食器を洗い終わった手を、タオルで拭いていた。ふと、冷蔵庫の横に置いてあるバナナに目が留まり、引き寄せられるように手に取ってしまった。全体に綺麗なスイートスポットが出ている。ーー時計の秒針が部屋に響いてるのに気づき、ハッとする。私は、ゆっくりと瞼を閉じ、顎を天井の方に向け、深呼吸をする。息を吐きながら、ガラス細工を棚に戻すかのようにバナナを丁寧に元の場所へと戻し、口の中に溜まった唾をごくりと飲んだ。そして、たるんだ腹部を隠すように、ゴムの緩んだ部屋着のズボンを、両手で引き上げた。

やっていることはシンプルで、元の主観的な文から、要素を映像的に変換しているだけだ。たとえば、冒頭は以下のように書き換えている。

元)夕食を食べた直後だが、

改)午後7時、食器を洗い終わった手を、タオルで拭いていた。

当然、筆者は文学のプロではないので、その道の人から見れば稚拙な部分は多かれ少なかれあることだろう。しかし、先ほどの退屈でつまらなかった主観的な文章が、写実的なアプローチてリライトするだけで、読者の意識のスイッチを切り替えさせられるようなコンテンツへと変わったのがわかる。

今回は例文として分かりやすいように大袈裟に書いてみたが、ビジネスライクなライター仕事では、もう少しカジュアルにこうした手法を取りいれることを勧める。たまのアクセントとして使えるよう研究してみてほしい。

練習問題

【課題072】まず、最近入った飲食店に、どんな環境や条件、感情・気分で訪れたのかを思い出そう。続いて、それを主観的な表現で書いてみよう。そして、その文章を写実的なアプローチでリライトしてみよう。

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