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「は」と「が」の違いを人に説明できるか?【文章術017】

僕のnoteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うためのポイントを解説し、練習課題を出していく。

今回は、「は」と「が」の違いについて考えたい。

「は」と「が」は何が違う?

「日本語ノ『は』ト『が』ハ何ガ違ウンデスカ?」

大学生の頃に、英国出身の教授に独特の訛りでこう尋ねられたことがあった。確か、彼の講義が終わったタイミングで数人で雑談をしていた時だった。

僕は日本語が母国語なので、当然そんなことを意識して生きていた時間は1秒もない。はて、と頭を抱えてて1〜2分ほど真剣に悩んだ。

ちょうど英文法の脳に切り替わっていたタイミングだったので、可能性として思い浮かんだのは、「新情報」と「旧情報」の違いだった。井の中の蛙なりに、これは閃いた、と思ったものだ。

ただし、それを僕の英語力では、教授に対して英語で説明することはできなかった。日本語で何とか伝えようとしたが、彼に正しく伝わったかどうかは分からない。

その後、ライターの道を進むことになって、今度は日本語の脳で再度この問いを自問することとなった。

「は」と「が」は何が違うんですか?と。

伝えたい情報が前か後ろか

結論から言うと、「は」と「が」の使い分けに新情報・旧情報が関わっているのでは、という推測は、部分的に正しいものだった。

厳密に言えば、日本語学的に、助詞の「は」と「が」は、主に5つの用法があるとされている。この辺りは、日本語学者の野田尚史先生が『「は」と「が」』(くろしお出版)という本を出されているので、参考になるかもしれない。

ただし、こうしたルールを文法的に考えていくのは、本マガジンの趣旨から外れる。誰でも感覚的に使えるように、文法的な単語を使わずに、なるべく噛み砕きたいてみたい。

まず覚えたいルールは1つだけだ。「は」と「が」では伝えたい情報が前にあるか、後ろにあるかが異なる。「は」の場合、伝えたい情報は続く文書にある。「が」の場合、伝えたい情報は手前の単語だ。

例えば、AはBだ/AがBだ、という文があった場合、重要な情報は太字の部分になる。

・AはBだ
AがBだ

例えば、Aに「好きな食べ物」を、Bに「寿司」を入れてみよう。

好きな食べ物は、寿司だ。

きっと何人も同じ質問をされている空間なのだろう。みんな、いま好きな食べ物の話をしていることは分かっている。誰もが順番に質問されて、ついに自分の番になる。「あなたの好きな食べ物は何ですか?」、と。そして答えるわけだ。「好きな食べ物は、寿司だ」、と。

好きな食べ物が、寿司だ。

一方、「は」と「が」を入れ替えると、この文の意味はガラッと変わる。 2時間くらい、いろんな質問をしていたのだろう。ふと、隣の人に勘違いして尋ねられる。「そういえば、嫌いな食べ物が寿司とおっしゃっていましたね?」、と。そして、答える。「いや違う、好きな食べ物が、寿司だ」、と。

このように、「は」と「が」では伝えたい情報が前にくるのか後に来るのかが変わるわけだ(文法的に学びたい場合には、新情報と旧情報について調べてみてほしい)。


例外もある

文法的に5つの用法がある、と触れたように、この用法だけで説明できるほど、「は」と「が」の違いは甘くはない。当然、例外があることは知っておこう。

例えば、以下のような文だ。

アイスが美味い。

きっと猛暑に、冷凍庫を開けて、買い貯めていたアイスクリームを食べてのひと言だろう。アイスがあるということは当然わかっているし、誰にアイスを伝えたいわけでもない。先の例に習って「アイス」が大事な情報なのか、と読解すると間違いになる。どちらかといえば、「夏に食べるアイスは美味い」の意味で使われており、重要なのは美味いの方である。

この「が」は、話者の主観を表しているとされる。手を伸ばしたらモノに触れるような臨場感を持った世界で、リアルな汗をかき、冷凍庫の扉を引くガラガラという音が聞こえた上で、主演役者がセリフを言う。「アイスが美味い」、と。

この「が」を「は」にすると、話しているのが役者ではなくナレーターになる。バラエティで流れる映像を説明するが如く、淡々と乾いたセリフを言うわけだ。

アイスは美味い。

この文では、主観的要素が薄れるとされる(文法的には「現象文」と「判断文」という概念で説明されているので、興味が有れば調べてみると良い)。


練習課題

今回の練習課題としては、「は」と「が」の使い分けを意識しながら文章を書いてみてほしい。

【課題017】「春に咲く花」をテーマに400字前後で文章を書いてみよう。その際、「は」と「が」の使い分けについて、いつもより意識しよう。


いつも何気なく書いている文書も、「は」と「が」に意識をフォーカスすることで、見え方が変わってくるはずだ。

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