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モノの「名前」にこだわる【文章術027】

僕のnoteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うためのポイントを解説し、練習課題を出していく。

今回は、モノの名前への意識について考えていきたい。

「電池」の書き方

5月も中旬に差し掛かり、我が家の2階では、既に“夏”の空気が感じられる。夕方には、ぬるめのサウナにでもいるような、じっとりした重い空気に変わる。窓を全開にするかエアコンを付けるかしないと、集中力が低下して、原稿など書けたものではない。

ちょうど、暑さに耐えかねて冷房を付けようとしたのだが、リモコンのボタンを押しても、エアコンはうんともすんとも動かない。どうやらリモコンの電池が切れているようだ。

……とまぁ、こんな文を書いたとしよう。こうした随筆的な書き方ならば、文脈で「電池」と言われても、「あぁ、あれね」と大抵の人の頭には、スーパーやコンビニで購入できるアルカリ乾電池が思い浮かぶから問題はない。

一方、これが雑誌やWebのメディアの記事、企業依頼で執筆する文章などーー即ちお金を貰って書くビジネス文ーーになると、「電池」と書いていたのでは通用しないことが増える。そんなときに「あれは、正式名称だと何と言うんだろうか?」と考える癖が必要だ。電池にはさまざまな種類がある。

ここまで、「そんなの分かるよ、単三電池とか乾電池でしょ!」と思った方は、落とし穴に片足を踏み込んでいる。

実は、JIS(日本産業規格)で定められた円筒形電池の規格は「単三形」のように“形”がつくのだ。もちろん、日常会話では単三電池の方が親しみやすいので、通じない表現ではないが、記事としての表記としては、「単三形乾電池」や「単三形アルカリ乾電池」などと書いた方が良いだろう。

古き良き出版体制ならば、校正や校閲の時点で誰かが直してくれるかもしれない。しかし、Webメディアに露出するテキストの全てがまともな校正・校閲をしてもらえるとは限らない。ほぼノーチェックのような場合さえあるだろう。

ただ文章が上手い人と、日常的にライティングで生活費を得ている人の違いは、こうした細かい調べものをする癖が付いているかどうかだ。

たとえば、note(ノート)は「note」であって「NOTE」ではない。Canonは「キャノン」ではなく「キヤノン」。ONKYOは「オンキョー」ではなく「オンキヨー」だ。アイパッドオーエスは、「iPad OS」ではなく「iPadOS」である。

ぜひ、製品名や固有名詞が孕んでいるライティングにおけるリスクを熟知しており、「お、これはなんだが危なそうな語だぞ」と察知できる能力を身につけてほしい。そのためには、名詞について書き、調べたり、失敗したりするという場数を踏むしかない。

例外もある

一方、正式名称とは違う表現を使わざるを得ない場面もある。それは、「媒体の統一表記です」と言われた場合だ。これは編集部や媒体単位でルール化された表現であって、好き勝手に変えることができない。

たとえば、縦書き本文で使うiPhoneの日本語表記は「アイフォーン」なのか「アイフォン」なのか。これは、媒体によってルールが異なるわけだ。ライターが「自分はiPhoneと全角で書きたい」と思っても、その本のルールなので従うしかない。

先の電池の例で言えば(まずあり得ない例ではあるが……)、もし「うちの媒体では、“単三電池”で統一しているんです」と編集者に言われたら、ライターは基本的にそれに従うしかない。正式表記が単三形電池だと分かっていてもだ。こうした際には、頑固に反抗して、関係性に亀裂を生まぬよう気をつけたい。

練習課題

【課題027】パソコンで、マウスなどを操作したときに画面に表示される「↑(矢印)」のようなマークを何と言うだろうか。調べてみよう。また、余力があれば、ほかにも間違えやすい表現がないか、検索して2〜3の例を見つけてみよう。

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