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芝生_寝っ転がる。 入るのは「に」と「で」のどっちか? 【文章術030】

僕のnoteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うためのポイントを解説し、練習課題を出していく。

今回は、助詞の「に」と「で」について。“場所を示す”意味で使う場合に、両者にどんな違いがあるのかを考えていきたい。


「に」と「で」の前提として

助詞の「に」と「で」はそれぞれ複数の用法を持つ。文法的な解説はここでは避けるが、たとえば、「に」は「到達点へと至る矢印」のようなイメージであり、「で」には「場所や手段、原因を表す」といった用法がある。

「に」の例
・仕事に行く(仕事へ到達するように向かっていく)
・12時になった(時点を指し示す矢印)
・椅子に座る(動作のあと状態がキープされる)
・鳥に餌をやる(餌は鳥のもとに到達する)あああ

「で」の例
・会社で仕事をする(動作をする場所が会社)
・にんじんでケーキを作る(材料がにんじん)
・空腹で集中力が切れた(原因が空腹)


「に」と「で」で悩む場面

上記の前提を踏まえると、「に」と「で」はそれぞれ、動作を行なった場所を表す使い方があることになる。例として、以下のような文について考えてみたい。

Q1)芝生__寝っ転がった。

下線部に「に」を入れると、「芝生に寝っ転がった」となる。一方、「で」を入れても、「芝生で寝っ転がった」となり成立する。さて、どう使い分ければよいのだろうか。


使い分けの指針

この問題に対する一つの解として、「話者の視点がどこにあるか」を意識しておくとよいと思う。たとえば、「に」を使った文は、俯瞰した客観的な視点で、淡々と語るのにマッチする。

例1)窓から外を眺めると、二人の男の子が走っているのが見えた。彼らは、目の前の河川敷に駆け降りていくと、力尽きたかのように、芝生寝っ転がった。

これは、話者の描いている視点と、寝っ転がった人物との間に距離がある。脳内に浮かぶ映像は、走っている二人を建物の窓から眺めているようなイメージだ。この場合には、「に」を使った方が自然である。情報としては、「寝っ転がる」よりも「芝生」の方が強調される。

一方、「で」を使った文は、視点が動作をする人物に近い方がよい。主観的な語りに適している。

例2)僕らは走った。そして、そのまま倒れ込むように、芝生寝っ転がった。

この場合、話者の視点は、走っている人物のものだ。脳内に浮かぶ映像は、倒れ込んだあとに見える青空だろう。草の匂いがするかもしれない。また、「に」を使った例とは異なり、「芝生」よりも「寝っ転がる」という“動作”の方がやや強く印象に残る。

では、もし次のようにした場合は、どうなるだろうか?

例3)僕らは走った。そして、そのまま倒れ込むように、芝生寝っ転がった。

この文で脳内に浮かぶ映像は、どうだろう。走っているシーンでは、走っている人物の視点か、あるいは近くからそれを見た映像になりそうだ。一方、芝生に寝っ転がるシーンは、俯瞰した映像に切り替わって、二人の男の子が大の字に芝生に寝ている様子が描かれるかもしれない。

もちろん、先ほど「一つの解」として紹介したように、「に」と「で」の使い分けは、そこまでシンプルなものではないだろう。「このシーンではどちらを選ばなくてはならない」のような堅い規則はないと思って欲しい。

一方、「1階_ハンカチを落とした」のように、「に」と「で」で文の意味が変わってくるケースもある。たとえば、「1階に」とすると、2階からハンカチを落としてしまったことになり、「1階で」とすれば、1階にいる間にハンカチを落としたことになる。そのため、ルールを鵜呑みにすることはできない。

しかし、「に」か「で」のどちらがよいだろうか、と書き手が悩むことがあれば、今回紹介した指針は頼りになる。細かい部分ではあるが、理論武装することで、執筆する際の迷いがなくなるはずだ。


練習課題

【課題030】「民宿__泊まった」「貯金箱_お金を貯めた」の2つについて、「に」と「で」を入れたの例文を書き、そのニュアンスの違いについて考えてみよう。

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