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ことばの「印象」を誘導するテクニック【文章術005】

僕のnoteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うための練習課題を出していき、そのポイントを解説していく。

今回は文章を読んだときに、読者が抱く印象の方向を誘導するための基本テクニックについて考えていきたい。


「重量」と「軽さ」の話

今でこそ文章術をテーマにnoteを書いているが、新人ライターの頃には先輩や編集者に原稿を見てもらって、叱咤激励とともに原稿が赤字(修正指示)だらけになるのが日常だった。

その頃にもらった修正指示で今でも印象に残っているものがある。細部はさすがに覚えていないが、たしかスマートフォンを説明するためのこんな雰囲気の短いテキストだったはずだ。

6.0型のスマートフォン。背面カメラは800万画素で、夜景撮影機能も備える。IP57の防水性能を搭載。重量は110g。

このテキストを見てもらった際に、こんなことを言われた——。「これだと、この端末が“重い”ように見えちゃうよ」、と。

当時、僕は「『重量』はあくまで重さを示す言葉だろう」という感覚で文章を書いていたので、この指摘にはハッとした記憶がある。

スマートフォンで110gならかなり軽い部類だ。しかし、「重量」という単語には、重いという漢字が先頭にあるので、例えば記事を流し読みをするような場面では、どこかずっしりとしたイメージを抱く人がいるかもしれない……。

この記事はスマートフォンについての事前情報を持っていない人が読む想定だったので、日本語的には間違いでなくても、表現を変えた方が良いという判断は腹に落ちた。

先ほどの箇所を修正すると、以下のようになる。110gという客観情報は変わらずとも、正しい視点で切り取ることで、読者に伝わる印象が変わった。

6.0型でありながらも110g、と軽いスマートフォン。背面カメラは800万画素で、夜景撮影機能も備える。IP57の防水性能を搭載。


言葉が持つ「印象」を意識しよう

こうした漢字や文字のイメージを意識することは、ライターとしては常に頭の片隅に置いておきたい。先に挙げた「重量」に限らず、さまざまな単語で起きる現象だからだ。

例えば、「長さ」と「短い」の違いや、「良い」と「よい」、「厚み」と「薄い」、「先月の」と「最新の」、「難しい」と「慣れが必要」など、少し考えただけでも次々と思い当たるキーワードが浮かんでくる。

・この紐の長さは10cmだ
→この紐は10cmで、短い
・先月の情報では
→執筆時点における最新の情報では
・このゲームは難しくてとっつきにくい
→このゲームは慣れが必要だがやりがいがある

たとえ同じことを描いても、このように表現の選び方で読み手に届く印象は大きく変わる。

ここで言いたいのは、どちらの表現が優れているのか、という話ではない。読者に抱いてほしい印象によって、両者を使い分けるテクニックが重要ということだ。


今回の課題

では、今回の練習課題を紹介しよう。

【課題005】自分の苦手な食べ物(もしなければモノでもOK)について、100〜150字の文章で説明したうえで、それが美味しそうに読者に伝わるように表現を書き換えてみよう。なお、主観的な「好き」・「嫌い」といった情報は直接書かないことを意識してほしい。


もし、「文章における印象操作」と括ると、どこかネガティブなイメージが伴いそうだ。

しかし、情報を意図した視点・角度で伝えるというテクニックは、少なくともビジネスシーンにおけるライティング仕事では欠かせないものである。

情報を誤認させるためではなく、意図通りに伝えるためのコツであることを強調して、今回の結びとしたい。

本マガジンの課題についての補足説明は、Twitterの「MOJIBITO|文章術」(@mojibito)アカウントにて投稿する予定だ。また、サークル機能の「MOJIBITO」にて、添削用の送信フォームも用意するので、本マガジンの課題に本気で取り組む際には、ぜひ活用して欲しい。

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