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「諦める」ことが良い文章につながる理由 【文章術004】

僕のnoteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うための練習課題を出していき、そのポイントを解説していく。今回はタイトルの通り、「諦める」ことの重要性について紹介したい。

「聞いていて疲れる話」のはなし

僕は仕事上、ビジネスパーソンや企業家にインタビューをしたり、企業のプレゼンテーションを元に記事に起こすような機会に恵まれている。相手は大企業の製品担当者であったり、個人経営のカフェのオーナーであったり、と様々だ。

当然、取材する内容は、個人的に興味があるテーマなこともあれば、全くもって興味のないテーマなこともある。しかし、こうした違いは、僕にとって実はそこまでモチベーションに差を生まない。話や情報をまとめて原稿に起こすことが「仕事」なので、淡々と作業をこなすだけだからだ。

一方、「嗚呼、今回は疲れるな……」と感じる取材にも当然出会う。それは、情報が「全部乗せ」になっている場合だ。よく出会うのは、こんな流れのプレゼンテーションである。この手のプレゼンテーションは規模の大きい企業に多い。

本日はご参加いただき、ありがとうございます。私たちは常日頃からAを頑張っています。先日はBということがありました。今回発表するCという商品のメリットは、DとEとFがあります。あと、Gが〜です。まずDは〜です。Eは〜です。Hもありますし、Iもあります。そして今回頑張ったのがJです。Kは〜です。続いて、Lです。そして……(1時間経過)。

これは必要な情報を、限られた尺の中で全て紹介しなくてはならない、という企業側の都合が関係している。一方、これを仕事でレポートにまとめることになっているライターからしたら「うわぁ……」となるわけだ。

想像するならば、小腹が減ってさっぱりしたラーメンを食べたいときに、サービスでチャーシュー、味玉、ネギ、ノリ、ニンニク、温野菜、煮干しの粉末、トッピングが全部乗っているメニューが出された感じが近いだろうか。受け手としてはくどくてお腹いっぱいだ。スープの素材を感じながらシンプルに味わいたいのに、トッピングが邪魔してくる。


「諦める」のが重要という意味

ここで記事の書き手は何をするのかというと、記事として伝えるべき情報を絞る。ラーメンなら、出されたトッピングを全部捨てて、スープと麺だけにするわけだ。先の例文で言えば、以下の太字の部分だけを抜き出して、ほかの情報を排除することになるだろう。

当然ではあるが、企業が自信を持って発表した内容だ。枝葉の情報の中にも「重要そうだな」とか「面白いなぁ」と感じる内容はある。しかし、ここの情報が面白い、と思いながらもバッサリ切り捨てられることも必要な技術だ。以外に思うかもしれないが、「このチャーシュー美味しそうだな」と思いながら丼から取り除くには、相応の決断力がいる。

本日はご参加いただき、ありがとうございます。私たちは常日頃からAを頑張っています。先日はBということがありました。今回発表するCという商品のメリットは、DとEとFがあります。あと、Gが〜です。まずDは〜ですEは〜です。Hもありますし、Iもあります。そして今回頑張ったのがJです。Kは〜です。続いて、Lです。そして……(1時間経過)。

【原稿にしたもの】◯◯社はCという新製品を発表した。Cには、DとEとFという3つの特徴がある。Dは〜だ。Eは〜だ。Fは〜だ。価格は△△円。

多くの記事で目にするのは、こういった整った情報だ(※一部の「イベントレポート」と呼ばれるプレゼンテーションの流れ自体を紹介する記事を除く)。ちなみに、この際、Fの特徴は説明されていなかったので、別途配布資料を探したり、担当者や広報に取材して確認することになる。


自分が文章を書くときにどうするか?

さて、ここで伝えたかったのは「文章の中に情報がありすぎると、読み手は本質を受け取りづらくなる」という現象だ。

上述したように、取材ベースの原稿を執筆する際には、この情報を捨てるという過程が必須になる。一方、この難題は、自分が文章をゼロから書く番になると、自分自身にも降りかかってくる。

あれも書きたい、これも書きたい。こんな小話や例え話を挟んだら分かりやすくなるだろうか——そんな書き手の想いがどんどん文章を長く冗長にしてしまう

例として、本マガジンの第1回で紹介した課題を元に、です・ます調の文章にしてみよう。情報を全部伝えると、カバンの全体像こそ見えてくるが、この文章で本当に伝えたい情報が何かはわからない。よっぽど暇な人しか読んでくれないだろう。

2021年の9月にECサイトで購入したカバンで、価格は1000円台後半です。大部分は「dimgray」に近い灰色で、表面は布地。サイズは横35cm×縦23cmくらい。13インチ程度のノートPCが入る薄型のブリーフケースです。ノートPCの携行に利用しています。クッション付きのメインポケットがあって、その入り口はファスナー。左右の金属に、紐を付け、肩からさげられます。金属はシルバー。右端の金具に、ゲームのキャラクターの人形を装着しています。表の側面にサブのポケットがあります。

これらが書ける情報だとする。では、ここから書く情報を絞ろう。今回はPCを運ぶためのブリーフケースであるという点にフォーカスしてみる。

【Before】2021年の9月にECサイトで購入したカバンで、価格は1000円台後半です。大部分は「dimgray」に近い灰色で、表面は布地。サイズは横35cm×縦23cmくらい。13インチ程度のノートPCが入る薄型のブリーフケースです。ノートPCの携行に利用しています。クッション付きのメインポケットがあって、その入り口はファスナー。左右の金属に、紐を付け、肩からさげられます。金属はシルバー。右端の金具に、ゲームのキャラクターの人形を装着しています。表の側面にサブのポケットがあります。
【After】13インチ程度のノートPCが入る薄型のブリーフケースで、メインポケットの内側には衝撃からPCを保護するためのクッションがついています。肩掛け用の紐も取り付けられます。

大分スッキリした。購入日や価格の情報も入れたい……、とウズウズしそうなのがわかるだろうか。しかし、ここではあえてバッサリ切り落とすことが大事なのである。

文章を書いていて「この一文、この情報、この一言を入れたいなぁ」となんとなく思ったときにこそ、この言葉を思い出して欲しい。「それ、本当に必要?」と。敢えてその情報を入れずに、文章を成立させられれば、伝えたい情報はよりシャープになり、読者に刺さりやすいものになってくる。


今回の課題について

では、今回の課題だ。

【課題004】本稿の要旨を130〜150字で要約せよ。

枝葉多めのテキストなので、良い練習になると思う。「書かずに諦める」ことの重要性について、気づきがあれば嬉しい。

本マガジンの課題についての補足説明は、Twitterの「MOJIBITO|文章術」(@mojibito)アカウントにて投稿する予定だ。また、サークル機能の「MOJIBITO」にて、添削用の送信フォームも用意するので、本マガジンの課題に本気で取り組む際には、ぜひ活用して欲しい。

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