見出し画像

文の「距離感」は、自己開示と冗談で縮まるかもしれない

豚のヒレ肉を買うと、すごい贅沢をしている気分になる。

うなぎを買う、すき焼きの肉を買う、本マグロの柵を買うーー。たまのプチ贅沢には、いろんな価格や手段があるけれど、豚ヒレ肉を買ったときのそれは、なんだか特別だ。

あるとき、スーパーで豚ヒレ肉のブロックが安く売っているのを見つけて、反射的にカゴへ放り込んだことがある。割り引かれているとは言え、日々の食費を考えれば相当な贅沢だ。「豚ヒレ肉をカゴに入れてやったぜ」という高揚感を抱きながら、心の中でドヤ顔をしながら帰る。

本当は、豚カツにでもすればよかったのだが、揚げ物に挑む元気もない。レシピ検索をしてみると、「水煮」という文字が目に入ったので、何も考えずにそのまま鍋に放り込んだ。

温度や時間を意識して調理すれば、だいぶ違うのだろう。しかし、素人が何も考えずに茹でると、パサパサしたタンパク質の塊が出来上がる。きっと先人達は、何度もこの経験をしてきたのだろうと、想いを馳せながら、ひたすら顎を動かす。

正直、1ブロックそのまま食べるのは、しんどい。衣を付けて揚げるという調理は、意外と理に叶っていたのだな、と気付かされた。油分は偉大だ。

そんな時に、野菜室に良い感じに熟れたアボカドが、ちょうど1つだけ残っていることを思い出した。もしかして、これを一緒に食べたら美味いんじゃなかろうか、と心のなかのエジソンが囁く。

アボカドを切って、茹でたヒレ肉に添えてみる。予想以上に美味い。溜まり醤油を垂らしてみる。なんだか、チャーシューのようになった。

調子に乗って、モヤシとキャベツを茹で始める。ヒレ肉、茹でモヤシ、茹でキャベツ、アボカド、たまり醤油ーー。なかなか合うじゃないか。これはもうラーメン界で有名なアレだ。ほぼアレだった。麺は無いけど。

「アボカド増し増し」なら、きっと健康にも良い。少なくとも背脂よりはヘルシーだ。それにしても美味い。油の少ない豚肉と、アボカドは、とても相性が良い。

食べ進めるうちに、「もしかしたら、僕はすごい発見をしてしまったのかもしれない」と思い始めた。スマホを手にとり、仲の良い友人に、LINEでメニューと感動を共有する。

アボカドラーメン、アボカド豚カツ、アボカド豚ヒレ肉なんちゃらーー。アイデアは尽きない。ヘルシー路線なグルメチェーン店舗展開への夢も広がる。可能性は無限だ。あれ「アボカド」だっけ? それとも「アボガド」だっけ?

そんなこんなしてるうちに、友人から返信が届いた。ひと言。

「豚ヒレ高そうだな」



【あとがき】

エピソードはリアルなやつです。だ・である調で、距離感の近い文章を書くためには、このくらい自己開示をしながら、冗談を交えつつ書くと良いのではなかろうか、と仮説を立てながら実験的に書いてみました。多少は効果があったのではないでしょうか。知らんけど。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?