「専門用語」の説明は前か後か【文章術050】
僕のnoteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うためのポイントを解説し、練習課題を出していく。
今回は、専門用語を使うときに、キーワードの説明を先に置くか、後に置くかを考えたい。
説明は先じゃなきゃダメ?
原稿を書いているとこんなアドバイスを受けることがある。「説明文なしに専門用語をいきなり登場させてはいけない」というやつだ。
これはある部分では確かに正しい。しかし、その解釈は、気をつけなくてはいけないと思う。
たとえば、前置きや文脈なく、専門用語だらけの文章を書くのは、言うまでもなくNGだ。
この例文では、未知の情報に読者が置いていかれる。「モーダルインターチェンジ」「借用和音」「モード」「ダイアトニックコード」のような音楽用語が一気に並ぶことで、詳しい知識を持った人しか読めない状態になっているからだ。言い換えるならば、専門用語の説明に、専門用語が使われている状態だ。
もちろん、専門用語を駆使することは、知識がある人同士での情報伝達のスピードを上げるうえで重要だ。しかし、多くの人に読んで理解してもらう意図があるならば、適していない。
では、どうしたら読みやすくなるだろうか。一つの堅実なアプローチは、説明に使用されている用語についての説明を先にするというものだ。
先の例文ならば、「ダイアトニックコード」とは〜であり、「モード」とは〜でありーーのように、キーワードを先に解説することで、ようやく「モーダルインターチェンジ」とはという説明の階層に到達できるわけだ。
読者が理解する筋道を立てるという点で、「専門用語よりも前に、その説明があった方が良い」と言える典型だろう。
文量を比較的自由に調整できる記事ならば、この書き方が使える。ただし、用語の難易度によっては、それだけで、1つの記事が成立する量になるので注意が必要だ。
一方、次のような場合はどうだろうか。
おそらく、先ほどの例文Aと比べると、読みやすく感じるはずだ。書かれている内容が入門レベルまで噛み砕きやすいため、導入として使う説明文のハードルも下がっている。
この程度の情報ならば、「コード」という用語を文頭においても、読みづらさを感じる読者は、さほど多くないだろう。
もし「難しい専門用語をいきなり登場させてはいけない」というアドバイスに従うならば、以下のようにリライトできる。
確かに読みやすい。
ただし、このアドバイスに取り憑かれ過ぎて、「例Bは、良くない書き方だ。正しいのはB'だ」と判断する過激派になってはいけない。情報のレベルとして、読みづらくなければ、おそらくどちらの順で書いても良い。
同様に、例Aはたとえ語順を変えたところで、分かりやすくなるわけではない。分かりやすさは、“語順だけ”では決まらないのだ。
まとめると、
「●●●」とは〜だ。
という文と
〜を「●●●」と呼ぶ。
という文の間に機能として致命的な違いはない。と言えるだろうか。
「〜とは」以外の形で考えてみる
さて、上述した理屈は、「とは」という定義文だった。では、「とは」を伴わない文でも同じことが言えるのだろうか。
試しに、以下のような例文を考えてみたい。
2つの文を見る限り、「読みやすさ」という視点では、どちらを選んでもさほど大きな影響はなさそうだ。どちらを採用するかは、好みの問題と言って良いだろう。
「スペシャルAI撮影」という機能名を先に提示して印象付けたいか、説明文から滑らかに機能名につなげたいかーー。こうした書き手の意図に差があるだけである。
ただし、以下のような書き方は推奨しないことは、覚えておいてほしい。
これは、キーワードだけを書き記して、説明を放棄するパターンだ。雑誌のキャプションなどで文字数が極端に限られるなど、どうしても諦めなくてはいけない場合を除き、専門用語には噛み砕いた説明文をセットで添えたい。
練習課題
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