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ライターの仕事は本当にAIに奪われるのか?

10年前と比べたら、色々なことが変わった。

筆者はライターになって今年で10年目だ。10年前といえば、なんとなく「スマートフォンのカメラで写真を撮って、記事の原稿を書くなんて邪道な」みたいな空気感があった。

スマートフォンを追うライターとして、なるべく前衛的な働き方に挑んできたつもりではあるが、報道発表会をスマートフォンのカメラで撮るのに緊張感がなくなったのも、正直ここ5〜6年のことだ。

当然、ライブ配信のためにスマートフォンのカメラを掲げるインフルエンサーなんて、昔はいなかった(と筆者の体験の範囲では記憶している)。

当時は、ビジネスノートPC、ボイスレコーダー、名刺、カメラなどが必須の仕事道具であり、とにかく現地へと足を動かすのが、「取材」に求められる作法だった。インタビューの言葉は、都度メモをし、事務所へ戻ったら文字起こしのために、長い時間を費やした。

一方で、いまや仕事で使う取材の写真もスマートフォンのカメラで十分撮れる。動画配信を前提にした報道陣やインフルエンサーも多数いる。録音もスマートフォンで可能だ。パソコン代わりにタブレットを開いて、不思議そうな顔をする人は見かけない。


さらに言えば、Web会議ツールを使って、遠方の相手に対してもオンライン取材が行えるし、録音したデータは(音質にもよるが)文字起こしツールで8割がた自動でテキスト化される……。

移行は緩やかかもしれないが、ライターとしての仕事の在り方として、許容される範囲・スタイルは確実に変わってきた。

次の10年はどうなるか?

では、次の10年はどう変わっていくか、と考えたときに、「AI」の活用機会が増えることは確実だ。

次の10年と言わずとも、クリエイティブツールなどでは、既にAIを活用した機能が当たり前のように普及している。

例えば、画像から被写体(あるいは背景)を自動で選択して、レタッチ操作を行うといった過程は、既に「職人技」ではなくなり、誰もがちょっとした操作方法を知ればすぐ行えるものになった。無表情な被写体を笑顔にするような編集も、PCがあり、必要なツールさえ契約すれば、数分のチュートリアル動画を見るだけで挑戦できてしまう。

ちなみに、先述した録音の自動文字起こしなども、AIを活用したツールだ。もっと言えば、スマートフォンのカメラが綺麗に撮れるのも、見えない部分でAI的な処理が施されているからだ。知らず知らずのうちに、私たちは、AIの恩恵を受けている。

このようにAI(人工知能)・ML(機械学習)を活用した技術・ツールは、ライターにとって「敵」ではなく、「頼れる味方」として普及してきた。

しかし、ここにきて、少し風向きが変わるかもしれない。ジェネレーティブAI(生成系AI)と称される技術・ツールが、製品レベルまで洗練されてきたからだ。

例えば、キーワードを入力して、それに合わせた絵や写真を生成してくれるツールは、既に市場に多く存在する。人間は、AIに指示をして、単純労働はAIが行う。もうそんな時代に片足を踏み入れている。


AI執筆ツールはライターの仕事を奪うだろうか?

特に、2023年に入ってから頻繁に報道で目にするようになったのが、AIチャットボットの話題だ。これは、文章生成が可能な言語モデルの発展によって、日本語を含めたテキスト生成が半自動化されつつあるためだ。

こうしたツールの代名詞的な存在には、定番のブラウザを提供するITビッグ5の数社が絡んでいることもあり、ニュースとして話題に欠く日はない。インターネットでの情報検索が姿を変えるのでは、という期待感は募る。IT系のテーマに関わるライターの1人としても非常に興味深い話題だ。

しかし、ことライターという立場で考えると、「文章を書く」という仕事がAIに奪われないか、という懸念・疑問は当然沸いてくる。実際、話題のチャットボットや、AIを駆使した日本語ライティングツールはすぐ試した。

具体的には、AIツールを駆使するコツをリサーチしながら原稿を作成し、実際に自力で書いた原稿とどのくらいクオリティが異なるのかをチェックしてみた。しかし、結論を言えば、AIによって生成される文章は、まだプロのライターとして、そのままクライアントに提出できるレベルではないと感じた。

例えるならば、ライター歴数ヶ月の新人に書かせたような文章が生成されることが多かった。「余計に修正をする手間がかかる」「イチから自分の頭で書いた方が良い」という思考になった。修正を加えたら書き込みだらけになる……というより全て書き直さないと「筆者の原稿」としては納品できないものだった。

プロのライターが運用のコツを調べてながら使ってこうした体験だ。ライティングや編集・AIツールの運用に詳しくない一般ユーザーがツールを活用しても、クオリティの高い文を、シーンを問わずに整えることは、まだ難しいだろう。

ゆえに「少なくとも、数年でライターの仕事が無くなることはないだろう」というのが筆者の結論だ。

AI執筆ツールにどう向き合うか

一方で、こうしたAIライティングツールの有料プランを契約しても良いかもしれないーーとも思っている。

その理由は2つある。1つ目は、テーマによってはAIライティングツールが執筆アシスタントになりうるからだ。

そもそも、先述したように、ライターとして価値が発生しやすいテーマには、AIによる自動生成を生かしづらい。例えば、最新のニュースや、筆者の感想を交えた製品レビュー、インタビュー記事などはAIライティングと相性が悪い。筆者は生業としては、こうしたテーマを書くことがほとんどなので、直接的に仕事で納品する文をAIに書かせるということは、まだできないと思う。

しかし、思考が固まって、良いアイデアが生まれないような場面で、AIライティングツールがヒントをくれることはあると思う。

例えば、「小型で扱いやすいスマートフォンに、読者の目を引くような15文字のキャッチコピーを付ける」といった作業は、人間がやると意外と時間がかかる。対象が1台なら問題ないが、似たような機種が5台あったら、キャッチコピー作りは大変だ。このような場面で、AIライティングツールを使えば、創作の方向性について、素早くヒントを得られる。

つまり、アイデアが浮かばないときの「相談相手」としての価値を感じたわけだ。


2つ目には、今からAIライティングツールに慣れておいた方が良いと感じたからだ。

これは、細かく分けると2つの理由がある。まず、「AIライティングで書けない文章」とは何か、を把握しておいた方が良いと思ったからだ。

少なくとも、AIによって安価かつ容易に文章を量産できる時代は来てしまった。プロのライターとしてクライアントからお金をもらうためには、AIではできないことをしなくてはならない。つまり、どんな文章なら、AIが書けないのかーーを理解しておくことが重要だろう。

次に、AIツールに対してのオペレーション(指示出し)を上手くなっておいた方が得だと思ったからだ。

ライティングに限らず、ジェネレーティブAI全般に言えることだが、それらを上手く扱えるスキルは価値として認められつつある。今は「何度もAIに指示を出すより、自分で書いた方が早い」と思っているが、これが「自分で書くよりAIに効率よく指示した方が良い」に変わることは今後あるかもしれない。

きっと「AIライティングツールに、こういう条件付けをして、指示をすることで、比較的綺麗な文章に整えられる」という情報を知っていることが、ライターとして得になる。そんな期待を込めている。

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自然言語モデルを活用したチャットボットやAIライティングツールの普及は、さまざまな分野に大なり小なり影響を与える。

ただし、ライターに関して言えば、少なくとも今後数年で仕事自体が無くなるようなことは起こらないだろう。

しかし、AIライティングツールで簡単に生成できるようなテーマ・文章と、人のライターにしか書けないテーマ・文章が二極化していくことは想像に容易い。また、今からさらに何十年も経てば、AIライティングはさらに高度になっているかもしれない。

プロのライターとして、10年後も生き残るためには、AIが苦手とする土俵を常に把握し、かつAIライティングツールの良いところを取り入れて、効率化を図れるようになっておくのが、一つのカギになるのではなかろうか。

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