人の話を「意訳」するように書き換える【文章術073】
本noteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うためのポイントを解説し、練習課題を出していく。
今回は、インタビュー記事で使えるテクニックを紹介したい。
編集するか、否か
大前提として、インタビューした内容を元に、記事を執筆する行為は、かなりセンシティブであることを理解しておこう。
ライターは、インタビュイーが発言したかのようにテキストを書く。公開された記事の反響が、ポジティブであれ、ネガティブであれ、特定の人に対して、影響が及ぶ可能性があるわけだ。
そのため、インタビューから記事を書くうえで、現実的には、概ね以下の2通りのプロセスが必要になる。
【パターンA】
(1)「記事に書いたあとで、内容の確認はできない」とインタビュイーに伝えておく。
(2)インタビューをする。
(3)内容や意図が不明瞭な発言は、録音に頼るだけでなく、その場で、確認する。
(4)録音やメモを確認していて不明瞭な点は、メールや電話などで追加取材を行う。
(5)インタビュイーが発言した内容をなるべく忠実に書き起こしつつ、記事の体裁に整える。
(6)編集権限を持つ者に、原稿を納品する(編集権限を持つ者自身が執筆する場合は、この過程はない)。
【パターンB】
(1)インタビューをする。
(2)後日、校正確認ができることを伝える。
(3)メモや録音を元に、記事を執筆する。
(4)編集権限を持つ者に原語を提出し、校正ができる記事の体裁(誌面のPDFや記事のプレビューURLなど)に整えてもらう(編集部員自身が執筆する場合は、この過程はない)。
(5)不明瞭な部分を確認するとともに、インタビュイーへの校正を依頼する。
(6)インタビュイーからの指摘を可能な範囲で、反映する。
あくまでも主な2パターンという意味なので、細かい工程が変わったりすることはある。ここで理解しておきたいのは、書いた後にインタビューに確認してはいけないパターンと、確認しなくてはいけないパターンがあることだ。そして、これらの工程は、媒体ごとの規定や商習慣によって変わってくる。
こうした前提のもとで、本noteで紹介する以下のテクニックは、パターンB(=後日の校正確認を前提とする場合)にて、「(3)メモや録音を元に、記事を執筆する」を行う際に使えるものだと理解しておいてほしい。
大多数の人は綺麗な文で回答できない
よく政治家の発言では、破綻しているような構文について、揚げ足がとられることがよくある。
しかし、インタビューに慣れたライターならば、多くの人が、会話中に構文が破綻してしまうことを経験的に理解はしているものだろう。
はっきり言って、演説やプレゼンテーションのトレーニングをしっかりと積んだ者でなければ、不思議な日本語が連発するのは当たり前だ。実際、インタビューの音源から記事を書いてみると、何分も句点が来ずに、何重にもなった文を、ゆっくり紐解いて行かねばならないことも多い。
もちろん、発言が美しく、文字に起こすとそのまま記事が完成してしまうような人もいる。ただし、そんな相手は、年に数人出会えるかどうかのレアキャラだ。
多くのインタビュー記事執筆では、発言を元に、編集し、読みやすい文へと書き直す工程が不可欠だ。ライティングテクニックとして価値が発生しやすいのは、この部分である。
実は、基本の作業プロセスについては、過去の回で具体的に取り上げている。未読の方は、こちらにざっと目を通しておいてほしい。
「意訳」が必要なことがある
さて、過去回の内容を要約すると、具体的なプロセスを数ステップで作業することで、原文を以下のような記事の体裁へと加工できるということだった。
原則的には、この工程に慣れていれば、ストレートなライティングで困ることはないだろう。
しかし、すべての記事において、この手法だけで充分な対応ができるわけでもない。編集的な視点が求められる企画では、インタビュイーが発言した内容について、視点を変換しなくてはならないことがある。これは、外国語の文章を日本語に直訳し、そこからさらに意訳するような作業に似ている。
たとえば、先のインタビューの例文を「出社」というテーマで記事を書く前提で、意訳すれば、次のように書けるわけだ。
この文は、インタビュイーがストレートに主張したことを書いたわけではない。しかし、発言内容から判断できる「事実」としては間違っているわけではない。さらに言えば、もしかするとA氏が名言はせずとも、発言の裏に潜んでいる本音を拾っているかもしれない。
このコメントを挿入することで、「出社」に関する話題が広げやすくなるならば、記事の要素として、インタビューでの発言をうまく調理できたことになるわけだ。
一方で、改変のしすぎはNGである。たとえば、次のように書くのはかなりリスキーだろう。
このように、事実の範囲をこえ、ついうっかり思想・意見まで言及してしまうと、それはむしろ“誤訳”と言える。インタビュイーからも「そんなこと言っていない/考えていない」とご指摘・お叱りをいただく可能性が高くなる。
このようなリスクがあるからこそ、記事公開前に校正確認ができる原稿(発言内容の編集に対して肝要な媒体・企画)でしか、こうした手法は使えないわけだ。
本noteで紹介したような意訳的なリライトでは、このギリギリの境界線を見極めるのが重要だ。「事実」を変えず、「視点」を変えていくーー。可読性の向上や、記事の説得力を高めるためには、こうした編集的なアプローチが効果的なこともあると、理解しておきたい。
練習課題
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?