見出し画像

あえて「書かない」ことを意識する 【文章術010】

僕のnoteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うためのポイントを解説し、練習課題を出していく。

今回は、ときに「書かない」決断が大切になることを紹介したい。

「世界一」を書かない。

「我が社の製品Aは、世界で初めてBを実現しました」——。僕が普段取材している業界では、このような謳い文句をよく目にする。

たしかに、「世界で1番/初めて〜」というのは、見出しにしたらキャッチーな情報だ。ただし、書き手からすると、その情報が本当なのかどうかは確かめづらい。

実際、信頼できる大手企業の場合には、「※X月X日時点における、弊社調べによる〜」といった補足がされている。こういった注釈がある場合には、書き手としても、注釈と共に安心して情報を引用できる。

一方、展示会の取材などで出会った海外のベンチャー企業が、カジュアルに「我が社の製品Aは、世界で初めてBを実現しました」と言っていた場合は注意が必要だ。書き手としては、こうしたキャッチーな情報に釣られず、「へぇ〜、そうなんですね」と冷静に受け止めなくてはならない。

結論を言えば、そんな場面で、僕は「世界で一番〜です」という情報をなるべく原稿には書かない。個人のリサーチ力では、事実を確かめるのが実質不可能だからだ。

「書かない方が良い」ことはある

上記の話は極端な例だ。しかし、文章を書いていると、同じような「書かない方が良いこと」は意外と多い。その頻度は、自分の知らないことを書く機会が多いほど、増えていく。

特に、少し知りだしたテーマについて、「これも書きたいな」と思ったときこそ注意が必要だ。取材不足で書いてしまった情報こそ、間違いやすい。

例えば、「鉄のフライパンにシーズニングをする」というテーマを考えてみる(何のことかわからなかったら検索してみて欲しい)。すると、「オリーブオイルを使いましょう」と説明している文章を少なくなからず目にするはずだ。

しかし、少し調べるとシーズニングに使うべき油は種類が定まっていて、実はオリーブオイルは適していないとも分かる。つまり、先ほどのような情報は鵜呑みにしない方がよいわけだ。

ここで、しっかり専門家に取材ができているならば、シーズニングの原理と、油の種類と特性について解説し、どの油を使えば良いのか、まで書ける。

ただし、そこまで労力をかけられない。あるいは、文字数に制限があるといった場合には、敢えて書かないという選択肢もある。要するに、どの油を使うべきか、には一切触れないという決断だ。

当然、原稿の情報密度や説得力は無くなってしまうが、「戦略的な逃げ」は悪いことではない。少なくとも誤ったことを発信するリスクは避けられる。

今回の課題

では、せっかく話題に出たシーズニングについて書いてみて欲しい。

【課題010】鉄のフライパンの手入れである「から焼き/油ならし/シーズニング」などについて、説明する200〜400字程度の文章を書こう。その際、不正確な情報を書かないために、敢えて詳細に触れない部分を作ることを意識してみよう。

細部について、こだわって書きたいことも理解できる。しかし、全ての文章でこだわり続けることが難しいのも、また事実だ。

筆と共に生きるには、忙しいとき、体調が優れないときなど、どんな場合でも及第点の文章を書き続けることが重要だ。見栄えするテクニックではないが、いつか必ず役に立つ。

本マガジンの課題についての補足説明は、Twitterの「MOJIBITO|文章術」(@mojibito)アカウントにて投稿する予定だ。また、サークル機能の「MOJIBITO」にて、添削用の送信フォームも用意するので、本マガジンの課題に本気で取り組む際には、ぜひ活用して欲しい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?