陽性者水増しのからくり

AKIRAです。
本日は、Xで少し取り上げられたPCR検査関連のお話をしたいと思います。


qPCRとCt値

正直私はこの話が今更な話なので、どう扱ったものか悩みましたが、結局のところPCRの技術運用に致命的な目的のずれがあったために新型コロナウイルス感染症の陽性患者が激増してしまったことを考えると、さすがに書かざるを得ないかと思いました。

PCRを感染症のスクリーニングに利用してしまったがために、PCRの本来の利用目的からずれた運用方法になってしまったことが、この始末になっているのだと思います。
また、それらを専門的に扱った組織の専門家も遺伝子工学技術を理解したうえでPCRを利用したのか、疑問が残るばかりです。

改めて、PCRについてお話ししたいと思います。
サブタイトルにもある通り、検査に使われたのはqPCRという方法で、DNAを増幅するたびにどれだけのDNA量になっているのかを一回一回定量する方法がqPCRです。

最初のDNA量が1だとすると、1回増幅すると2倍になるのでDNA量は2に。次は4、次は8、16、32、、、、と続きます。
この時の増幅回数が例えば、DNA量が32になる時を考えると、1から5回増幅した時なので、この時の増幅回数は5です。

そして、PCRの機械は増えていくDNAの量を蛍光物質で計測できるので、増幅回数が増えるたびに蛍光強度はDNAが増えた分だけ増加します。
そうすると、最初のほうでは機器が検出できる蛍光強度を下回っているのですが、次第に検出範囲にまで傾向が強くなっていきます。

この時、増加のスピードが一定(グラフが直線になったとき)になる部分の蛍光強度を閾値として設定し、その時の増幅回数をCt値と定義しています。


図1 qPCRでの蛍光強度の大きさの変化

この上に示した図では、グラフは一種類だけですが、よっぽどのことがない限り反応条件が一緒であれば、サンプル内のDNA量が多いグラフはこのグラフが左(←)に動きます

なぜかというと、DNA量が元から多い分、蛍光強度が強くなるタイミングも早くなるためです。
したがって、閾値の横線にグラフが差し掛かるタイミングも早いため、DNA量が多いサンプルはCt値が小さくなることになります。

図2 DNA量の違いによるPCR蛍光強度曲線の変化

この図2のように、DNA量が多いほうが閾値に差し掛かるタイミングが早いため、Ct値は小さくなりますね。
つまり、

DNA(多)→Ct値(小)
DNA(少)→Ct値(大)

という関係になります。

では、実際はどうだったか

上のリンクに載っている通り、少し古いデータですが、2021年6月時点では日本においてPCR検査における陽性/陰性のCt値基準を40以下としています。そして、これ見よがしに「Ct値のカットオフ値(本記事における閾値のこと)は専門家の意見によって数値変動あり」と書いています。
つまり、ある程度の予防線を張っていたということです。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000856819.pdf

しかし、上のリンクの通り、厚生労働省は2020年時点でコロナウイルス感染症発症者のCt値が20前後であることを報告しており、別の論文で培養コロナウイルス分離の観点で、Ct値30が陽性判定の基準として妥当であろうという結論を出しています。

つまり、ある時点で妥当であるはずと結論を出したCt値30をそれよりも後での現場の検査ではCt値40を境界として採用していたということです。

この意味がお分かりいただけますでしょうか。
Ct値30と40では、10回分の増幅回数の差があります。
仮に、増幅効率が100%であったと仮定すると、DNAは一回の増幅で2倍になりますので、それが10回分だと2の10乗です。

2の10乗は1024です。つまり、PCRの感度は少なく見積もっても約1000倍も甘く設定されていたということになります。
これでどうやったら、正常に感染のリスクのある人だけを検出できるのか。どうしてこれで適当だと思ったのか。

感度を上げた理由は?

どうしてこんなにも感度を上げてしまったのでしょうか。

正直なところ、私はこんなバカなことをした理由がどうしても考えられないのですが、無理やりひねり出せば出てこないこともないです。

それは、「単純に感染リスクであると判断する幅を大きくすれば、水面下にある感染リスク(と銘打って)をすべて拾い上げ、コロナウイルス感染症による社会的影響の大きさを過大評価する」ことです。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、ウイルスには「潜伏期間」と呼ばれるものが存在し、ウイルスのタンパク発現が起こらない時期が存在します。
PCR検査では、ウイルスのゲノムが入っていれば、その遺伝子配列が増幅されて陽性となりますが、実際にそのウイルスが自分の体を作ろうとするときはある程度時期が実際とは乖離して起こることが通例です。

だから、抗原検査などのいわゆるウイルスのタンパクに反応する検査は、ウイルスの遺伝子発現から遅れて陽性判定が出ます。
これは、インフルエンザの検査でも同じです。

よって、結論としては、「検査の検体としてタンパクではなく、遺伝子をターゲットとしてしまったことで感染リスクを過大評価している」ことになります。そうすれば、多少ウイルスの産生を行う細胞の数が少なかったとしても、ゲノムの有無を評価できるPCR検査で陽性判定を実施すれば、本来感染リスクの低い患者を陽性者と断定してデータの水増しができてしまうのです。

コロナ対策としてPCR検査は大きな間違いであった

PCRの技術が公衆衛生学的に悪用された歴史の誕生です。
いずれ、公衆衛生の教科書にその爪痕を残す結果になるかもしれませんね。

未来の専門家候補生がその歴史を目の当たりにして、いったい何を思うのか。その専門領域で何を学ぶのか。
今から不安で未来を嘆くしかありません。

まあ、それもこれもすべて、遺伝子工学の技術をしっかりと理解しないままに応用することに原因があるのでしょうが。


2024.1.11 追記:ちなみに、厚生労働省が提示したCt値30ですが、これが妥当であるという根拠も乏しいです。ウイルスの分離ができたからといって、それが感染を可能とするだけのウイルス力価(難しいのでウイルスの感染力の強さであると思ってください)があったのかどうか疑問ですからね。

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