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「フィンランドの覚悟」を読んで

村上政俊著「フィンランドの覚悟」(発行所:㈱扶桑社)を読んだ。

https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594094263

 2冊目に読んだフィンランドの本。
 ロシアと近接しているフィンランドと日本は、地政学的には似てる国なんだけど、フィンランドの事がわかる本はとても少ない。本書は、数少ない、フィンランドを知る本。

独立から100年余 それがフィンランド成功のカギ

 フィンランドは、世界幸福度ランキングで6年連続1位になっている。流石に6年も続いていると、フィンランドが理想郷のように思えてくる。
 医療費が無料で、高校までの授業料や給食費が無料で、「子供」に関わるものへの手厚いサービスや、医療費が無料で、働いてから大学に戻りたくなったら、いろんな助成制度があるので、幸福度ランキングも頷ける。
 けど、フィンランドの軍事費は、既にGDPの2%を超えている。アメリカの軍事力評価機関「グローバル・ファイヤーパワー」が公表している世界軍事力ランキング2023で、フィンランドは51位(海軍だけなら12位)。
あれも、これも政府支出があるって、どこにそんなお金があるんだろう?
と思ったけど、フィンランドの政府総債務残高は、2023年10月現在で、対GDP比で73%ほど。日本の260%とは雲泥の差。
どうなってんだ、フィンランドって?

 本書は、そんな不思議の国フィンランドを、冷静に語り、夢の国から現実に引き戻してくれる、そんな一冊。勉強になった。
 もちろん、それでフィンランドという国の魅力が色褪せたわけではない。むしろ、フワフワとした部分が消えて、強く逞しさを兼ね備えた、人に優しい処だと思えた。

ロシアとは

 フィンランドは、1917年にフィンランド共和国として独立した。
 まだ、100年足らずの独立国。

 独立以前の100年ほど、フィンランドはロシアの支配下だった。その前の13世紀から19世紀初めまでスウェーデンの支配下だったので、長きに渡り、他国に支配されてきた辛い歴史を持つ。そんな事も知らなかった。いや、世界史で習ったのかも知れないけど、記憶の片隅にもない。
 これまで読んできたフィンランド関係の本によると、スウェーデン支配下の方が圧倒的に長いのに、嫌悪感を感じるのはロシア。スウェーデン支配下時代は東端の同盟国的な書きぶり。実際はどうなんだろう。

 本書によると、フィンランドは、ロシアがウクライナ侵攻を始めた4日後には、ウクライナに武器や食料提供を決定している。そして、3か月後の2022年5月には、NATO(北大西洋条約機構)に加盟申請し、2023年4月に31番目の国家として加盟が認められた。異例の早さで加盟申請が認められた背景には、中立国でありながら、長年NATOに協力してきた歴史もあるからだろう。
 そもそもフィンランド国内では、NATO加盟について、あまり多くの支持を得られていなかったそうで、けれど、加盟申請時には、NATO加盟の支持率が70%代にまで跳ね上がったそうだ。
 それほどの危機感が共有された、ということだろうか。

 フィンランドとロシアの国境は、1,340Kmもある。その国境線には、北にも南にも、今でも、ロシアに割譲されてしまっている地域もある。
 北海道から東京を通って大阪まで行ける距離を、かつて支配された大国ロシアと接している。傍目から見ても、並大抵の恐怖心ではないような気がする。などと書くと、VSロシアのように見えてしまう。
 でも、スウェーデンやノルウェーとも、合わせて1,300kmもの国境を接している。特にスウェーデンには600年も支配され、そして、最終的にはロシアに割譲されてきた歴史がある。
 
 フィンランドの独立宣言の頃と言えば、三~四代くらい前のご先祖様の時代。つまり、ロシアに支配されていた頃の話は、生々しくも今に受け継がれ、恐怖や嫌悪感も残っているのかも知れない。
 そんなこんなの国民感情が、先のNATO支持率急上昇に現れているのだろうか。それを政治が素早く汲み取って、いち早く対策を実践する国が、フィンランドなのか。そんな気がした。

 幸せの国フィンランドは、「自らの力で、幸せを掴み取った国」と考えた方がいい。本書を読んで、そんな漠とした感想を思った。
 2020年のフィンランドの合計特殊出生率は、1.37だったらしい。その影響が出てくるのは20年後で、出生率の低下は経済・財政に、労働力不足は社会保障に大きな影響を及ぼす。
 これからの20年間の舵取りで、日本のような失策にならないようにと願うばかりだ。

 本書の冒頭に、ニーニスト大統領の言葉が記されていて、心に響いた。
 「私たちは小さく、よくまとまり、安全な国である。私たちには、平等で、教育の行き届いた、逞しい国民がいる。だからこそ私たちは、変化に対して、粘り強く、迅速に、そして力強く立ち向かう事ができるのだ」
 日本の政治にも、こんなリーダーが現れてくれたらいいな。

(敬称略)

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