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でき太くん三澤のひとりごと その105

◇ 私の母


私の母はかれこれ10年近く前、ガンを患いました。

子宮頸がんのステージ1。

幸い抗がん剤治療の必要はなく、手術だけですみ、現在も転移することなく、日々元気に過ごしています。

今回なぜ母の話を持ち出したのかといいますと、おそらく私が今の仕事を通じて、子どもたちから多くのことを学ばせてもらっていなければ、母にしっかりアドバイスができなかったであろうと思うからです。


母は、ガンになるまで東京のある信販会社に勤めておりました。

以前、母と首都高を車で走っているときに、

「あ、あのビルで働いているの」

と言って、大きなビルを指差していましたので、さぞかし大変だろうなと思っておりました。

残業もかなりありましたし、朝はだれよりも早く出社することを意識していたようで、本当に忙しくしておりました。


なぜ、母はそこまでがんばっていたのか。


術後の病室でじっくり話を聴いてみると、母はとにかく「男性」には負けたくなかった。

今は昔と違って、だいぶ環境は変わってきてはいると思いますが、母曰く、女性蔑視は普通にあったようです。

どうも母はそういう偏見が大嫌いだったようで、とことん男性社員の方々と勝負していたようです。


自分の仕事は、人よりはやく、正確にこなす。
人の仕事も、遅ければ自分が代わって取り組む。

「男なんかに負けるもんか」

「なんで私より仕事も判断も遅い男が上司なんだ!」

そんな想いで、がむしゃらに仕事をしていたのです。


そんな母でしたが、会社の健康診断でひっかかり再検査。

ガンであることがわかりました。

しかも、女性を一番象徴する部分。
それを手術で切除しなければならない。

母にとっては、本当に辛いことだったと思います。


術後、麻酔が覚めて少ししてから、私と母はふたりでゆっくり話をしました。(前述したような母ですから、ちょっと弱っているときでないと、私の話を聞かないと思ったので)


「お母さんは、なんでガンになったんだと思う?」


「なんでかね。。。タバコとか、お酒、ストレスなのかな。。。運がわるかったのかね。。。」


「確かにそれも原因のひとつかもしれないけど、ぼくはそれが本当の原因ではないと思っているんだ。たぶんその本当の原因がしっかりわからないとお母さんのガンはまた再発すると思う。教育の仕事も同じでさ、なぜ子どもが勉強ができなくなってしまったのか、なぜ親の言うことを聞かなくなってしまったのか、なぜ大人を信用しなくなってしまったのか、その根本の原因を解決しないかぎり、何も進展がない。ただ日々新たな問題が生まれて、それに翻弄されていくだけ」


「そんなこと言われても、私だって何が原因かなんてわからないよ。。。検査したらある日突然ガンで、すぐに手術したほうがよいといわれたから、そんなこと考える暇もなかったわよ」


「ぼくはね、これまでお母さんの生き方を見ていて、たぶんこれが原因なんじゃないかと思っていることがあるんだ。それを今から話してもいいかな」


「いいよ、話してみて」


「お母さんはね、ちょっとがんばりすぎなんだよ」


「あのね、何いってんの。人間生きていればがんばるのは当たり前でしょ」


「うーーん、もう少しわかりやすく言うと、お母さんだけががんばりすぎというのかな。男に勝つとか負けるとか、上司を見返すとかではなく、もうちょっと肩から力を抜いて、もう少し人を頼りにする生き方をしたほうがいいと思うよ。お母さんを見ていると、頼れるのは自分だけで、他はあまりあてにならないから、自分ががんばるしかない。そんな片意地をはったような生き方に見えるんだ。それって、ぼくからみると、なんか辛そうに感じるんだよね。今回ガンになったのは、そういう無理な“がんばる”は、やめたほうがいいですよってことなんじゃないかな」


「無理な”がんばる”ね。。。確かにそうかもね。私はだれにも頼らずに生きてきた時間が長かったから、ついついそういう行動をしてしまうのかもしれないね。仕事が遅い人がいれば、任せないですべて自分でやってしまう。だって、そのほうがはやいから。実力もないくせに口だけは達者な男性社員とか見ているとイライラしてくるからね、そんな男には負けないぞとか、つい思ってしまうんだよね」


「まずはそういう思考のクセみたいなものからさ、変えていく必要があると思うんだよね。今回思い切って、会社辞めてみたら?そして、お母さんが一番キライなダラダラするだけの日々を少し過ごしてみたらどう?そして、術後はそんなにまだ動けないんだから、どんどん人に頼って、人に任せてみたら?」


「なるほどね。。。」


そう言って、少し疲れたから休みたいとのことだったので、私は病室を出ました。

翌日、母を訪ねると、母は会社を辞める決意をしておりました。


「もう、無理な”がんばる”はやめにする。ちょっと抵抗あるけど、少しダラダラしてみる。そして、ちょっと人に頼ってみる」


とのことでした。

母が私のアドバイスを比較的素直に受けて入れてくれたのは、きっと今の仕事で得た経験が活かされているからだと思います。

アドバイスをする相手を、しっかり意識で受け入れた上で、話をする。
これができていないと、なかなか相手はこちらの話を聞いてはくれない。

この「相手を意識で受け入れる」というのは簡単なようでいて、実はちょっと大変なことだったりします。そのことを多くの子どもたちから学ばせていただきました。

ありがとうございます。

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