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でき太くん三澤のひとりごと その60

三澤です。

私がはじめて「でき太くんの算数」の学習材開発に携わることができるようになった頃。

思い起こせば20年近く前になります。

学習材開発の師匠から、このようなことを言われたことがあります。

「でき太は、先生が教えずに子どもが自分の力で読み、考え、問題解決していく学習材です」

「では、分数という概念を全く知らない子どもに、まず何から提示していきますか」

といって、白紙の紙を手渡されました。


正直なところ、その当時の私は「教える」ということにはかなりの自信がありました。

自分も算数が苦手でしたから、わからない子がどういうところにつまずき、どのような言葉だと「わかる!」のかがイメージできました。

ですから、でき太の学習材開発も「わからない」経験をしたことがある自分であればきっとよいものができるという根拠のない自信があったのです。

ですが、子どもが自分で読み、考え、問題を解いていくことで「分数がわかった!」という状態にするというのは、想像以上にむずかしいものでした。

あれほどあった自信は、白紙の前にあっという間に崩壊したのです。


説明すれば簡単に子どもに「分数」を理解させることができます。

折り紙を1枚持ってきて、それを等分し、そのひとつが分数となる。

説明しながら具体物を使えば、子どもに理解させていくことができます。

しかし、説明もできないとなると、白紙の紙にまず何から提示すればよいのか。

いきなり折り紙の絵を書いて「これを等分します。そのひとつが分数です」

といっても、子どもにはなぜ折り紙1枚を”1”とするのか。

そして「等分」とは何か。

そういうことも説明できない。


「いったいどうすれば?」


白紙を目の前に、あれほど教えることに自信があった私の手は1時間以上も止まってしまいました。


みなさんも、ぜひ一度想像してみてください。

一切教えることができない。

その中で、設問と図だけで子どもに分数という概念を理解させていく。

それが理解できたら、分数の大小関係、同分母のたし算、ひき算を理解させていく。

つぎに分母と分子が同じなら「1」と解答する。

最後には上記の内容がスラスラと解答できるようにするための演算量を準備する。

その上で、まず最初の白紙の紙に何から提示していくか。

おそらくみなさんもすぐには提示できないのではないかと思います。

かつての私と同じように、おそらくみなさんも教えるということを前提にした教材しか見たことがないはずですので、「教えられない」という足枷がある場合、どうしたらよいのかかなり悩むと思います。

私も悩みに悩み、最初の1ページ目を師匠に提示してみましたが、師匠の第一声は、「これは分数がわかっている人が提示した内容ですね。こんな荒削りなものでは初めて分数を知る子にはわからないでしょう」でした。


「あれほど悩んだのに?」


心の中では、「だったら師匠が考えたものを見せてみろ!」と思いましたが、その後師匠が見せてくれた導入部分には驚きました。


私とは全く切り口が違う。


小学3年性でもイメージできるような図。

そして、できるだけ平易な言いまわし。

まるでクイズの穴埋め問題を解いているような感じで、その問題に導かれるままに解答していくと、分数という概念が何となくつかめてくる。

その頃を見計らって、違う事例からも分数を導入していく。

そして、小学校3年生くらいのお子さんが見やすいようにレイアウトまでイメージできていました。

この1枚を目にしたとき、自分だったらすぐにできると思っていた学習材開発の道が、そう簡単なものではないということを悟りました。


でき太の学習材をはじめて目にした親御さんには、「これは簡単すぎませんか?」と言われることがありますが、その多くは「大人の視点」、「わかっている人の視点」から出た意見で、未知の内容をはじめて学ぶことになるお子さんにはちょうどよかったりします。

今日もみなさんのお子さんは「自分のちから」で、学校で習っていないこと、教わっていないことを「自分のちから」で問題解決しています。

多くの子は「習っていないものはわからない」と言って考えようとしないことも、みなさんのお子さんは「自分のちから」で学びとっているのです。

今日もしっかり学習できたら、ぜひお子さんのことを心からほめてあげてください。

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