コロナで進むリモートの先に生まれるリアルの価値 老舗不動産会社の挑戦
「40S CREATOR’S INTERVIEW 中間地点折り返し戦略」5回目は、1961年創業の老舗貸ビル会社の三代目社長の髙木さん。日ごろ、ITやウェブ業界で働き、バーチャル空間で生み出される世界の中で生活していると、このままバーチャルの世界の中だけで何でも出来てしまうのではと思うことがあります。そんなバーチャルとはある意味、最も遠い世界、動かすことのできない「不動産」の世界で活躍される髙木さんのお話を伺って、コロナで進んだバーチャル時代の先にある、リアルの価値に出会うことが出来ました。
髙木秀邦 株式会社髙木ビル 代表取締役 社長
1976年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、プロのミュージシャンとして活動。その後、信託銀行系大手不動産仲介会社で営業を務めた後、祖父が1961年に興した株式会社木ビル入社。3代目社長として、東京都を中心に自社ビル・マンションの設計開発から管理運営までを手がけ、「オフィスビルの新たな価値創生」を掲げて活動している。敷金を保証契約に切り替え、成長企業に現金を戻すことで自社ビルの中で企業が出世していく過程を伴走するという経営思想を実現する「出世ビル」や、個人やスタートアップの成長を促しチャレンジに伴走するワーキングスペース「BIRTH」、働くと住むのグラデーションを実現するレジデンス「BIRTH IN-RESIDENCE」など、新しい価値観の不動産業を次々と展開中。 TAKAGI | 株式会社髙木ビル
以下、太字はインタビュアー、細字は髙木さんです。
昨年の後半からコロナの影響がジワジワきている
ーー不動産のコロナの影響を伺えたらと思います。
我々が本業としてるのは貸しビル業です。髙木ビルは創業して60年経ちまして、私は三代目。貸しビルの業界でコロナで影響が大きかったのは、飲食店舗を含めたビルです。飲食ビルは目に見えて苦境に立たされています。ホテル運用されてる方も苦しいですね。
そして、通常のオフィスビルはと言うと、コロナの影響で空室率が徐々に上がっている状況。
オフィスの契約は、不動産賃貸借契約になります。これは解約に対する予告期間、意思決定に至るまでの準備期間があるので、いきなり来月から止めると言った事が出来ません。そのため、今回のコロナのようなインシデントが発生してから、半年から1年ぐらい遅れて影響がでてくる業界なんですよ。そういう事情もあり、今年に入って影響が出始めているのがオフィス業界の現実だと思います。
ただ、それにも濃淡があります。これまでどういう規模で、どういう運営をしてきたか、どういったターゲットでやってきたかによって全然違います。規模で言うと、小さいビルの方が影響が少なかったりします。1フロア300坪とか500坪あるような大きなビルだと、借りている企業が結構な大手企業だったりします。そうすると、ダイナミックに意思決定がされる。リモートに変えたり、本社移転とかしますよね。結果、そういった大きなビルからごそっと抜けたりするんですよ。一方で細分化している小さなビルに入っている企業の場合、業績や社会不安はあるんですけど、移転するまでもなかったり、家賃の減額交渉をして乗り切ったりすることもできる。結果、都心部の大企業が借りていたオフィスが空いてしまっているという事が起きている。
我々の保有してるビルは、1フロア50坪とか100坪ぐらいの中型クラスなんですけど、大きなビルからの縮小移転の受け皿になったり、逆に埼玉や栃木などの都外に本社がある企業の東京本社、ヘッドオフィスとして借りてもらっている企業が撤退、みたいなケースも出てきています。業界的には昨年(2020年)の後半ぐらいから解約が増えてましたが、今年(2021年)の7月以降、入居が増えています。今年度(4月~)予算での企業移転計画が成約に繋がり、確実に件数は増えており、来年に向けて市場はかなり動いているように感じています。
ーーBIRTH(バース)はどうですか?
BIRTHみたいなスモールオフィスや、フリーワーキングオフィスは増えてますね。こういった状況なので、短期的な利用も含めてではありますけど、如実に増えてます。
ただこういったシェアハウスやフリーワーキングオフィスって、一般的な2年契約と言った期間での契約じゃなくて、大体マンスリーなんですよ。だから、選ばれないとすぐ止められてします。そういう意味では、ユーザからのダイレクトな反応をしっかりとキャッチアップしていかないと、すぐ離れてしまいます。
ーー日々ワーキングスペースの工夫、バージョンアップとかユーザの声を聞いてみたいな事をされてる
してますね。本当にカフェとか飲食店と同じような感覚値でやっていかないと、と思います。
ーー想像していた不動産屋さんのスピード感とはちょっと違いますね
ですよね。今までの不動産やビルオーナーからすると、テナントを入れてしまえばおしまい。後で途中で何が起きても解約までは知りません。毎月、賃料が安定して入ってきますっていうビジネスだったので、それとは全く似て非なるものですね。
震災を機に見つめ直したアイデンティティ
ーー敷金が半額など、これからの企業を応援する「次世代型出世ビル」という事業もされていますけど、こう言った新しい取り組みも、堅そうなイメージの不動産業界では難しそうなイメージがしましたが、大変だったんではないですか?
数年前にさかのぼるので、今より更にという話なんですけど、不動産の在り方が多様化していませんでした。我々がスモールオフィスやシェアオフィスを始めたのが3年半前なんですけど、その頃はWeWorkさんも来ていないし、珍しかったんですね。そして我々もそうだったんですけど、オフィスビル屋からすると、ちょっと格下に見ていた所がありました。ビル業界全体としてそんな見方をしていましたね。
そんな時に、なぜ出世ビルを始めたのかと言うと、2011年の震災の後の業界の厳しい現実と対面した時に、我々のアイデンティティってなんだろうかと突き詰めて言った時に、もっとテナント企業さんと同じ目標を持てないか、同じ仲間として同じ方向を向きたいよねという想いが積もっていった。それが出世ビルのプロジェクトへ繋がっていった。
いざ始めようとなった時に、社内からも仲介業者さんからも、そんな事をやったらまずいんじゃないか、髙木ビルのブランドを棄損しませんか、と反対されました。そんな敷金が払えないようなテナントを入れるなんて、どうかしちゃったよ髙木ビルさん、みたいに。それまでむしろ、審査も厳しく、ちゃんとした企業じゃないと入れないよ、と仲介業者からお断りしてもらってたようなビルだったんです。「髙木ビルさんには業績がよろしくない企業を連れていったら怒られる」ぐらいに思われていました。
そうやって何十もの壁を築いて守ってきたんですけど、震災を経て私が思ったのは、我々の価値ってなんだろうなってところが希薄になっていたな、場所とかスペックにとらわれていたなと。それが震災で社会全体が危機になると、大手ビルさんは賃料を半額以下にしたり、1年間フリーレントで引き抜いたりして、ダイナミックに空室対策するんですが、それに太刀打ちする術がないわけです。返す刀がない。
(大手ビルと)同じ条件なら髙木ビルに残りますとテナント企業さんからは言われるんですけど、なかなか太刀打ちができない。我々、もう1回価値づくりしなきゃいけないとなったわけです。そう考え始めたにも関わらず、古い慣習の中で、こういった事(出世ビル)をやって大丈夫なんだろうかとか、仲介業者を挟まずに直接ベンチャー企業からの問い合わせも対応しなければいけなくなるし、それによって仲介業者に物件紹介してもらえなくなるんじゃないかとか、心配事がたくさんありました。
なので、出世ビルを始める時って、法的に何かが難しくてって事はなかったんですが、ビル業界の中でこんな事やっていいんだろうかっていう不安は凄くありました。深い谷をおりゃ―って飛び越える気持ちで始めましたんですよ。
だけど、飛び越えてみて、いろんなベンチャー企業が入ってきて、本当に喜んでくれて、涙を流して契約してくれるような場面にもあって、そこから生き生きと成長してくような姿を、自分のビルの中で見ていると、飛び越えたはずの奈落の谷は、振り返ってみたらほんと水たまりぐらいの、なんて小っちゃい事を気にしてたのかな、みたいな感覚です。
今思えば、それだけ不動産の世界の中で生きる人間って凄く慣習にとらわれてるし、こういう物なんだってマインドが固定されてるように思いますね。
BIRTH Village / 91°の人生を歩む人へ より
ーー古い会社や業界であればあるほど、そういった谷を越えるって事は難しいように思うんですが、それって何が必要なんですかね?やっぱり社長の強い意志がないとできないのか、社内で止める人もいるので、組織として必要な何かがあるのか
もしかしたら外部のパートナーなのかもしれません。我々の領域内のマインドから、新たに生み出す事の出来る人もいるでしょうけども、我々が出世ビルを始めるに至ったのは、外部の保証会社さんだったり、進めた方が絶対いいよねって言う仲介業者さんが、外から刺激を与えてくれたってのは、きっかけになりましたね。外からはすごく見えてるんだなって。
自分の中で震災後に危機感がマックスに高まっていたタイミングで、何か生み出さなければとは思っていたんですけど、その何かって自分だけでは発明出来ないんですよね。だからこそ、その枠外からのアイディアを取り入れるというのは非常に有効かもしれませんね。
ーーなるほど。BIRTHに通ずるコンセプトを感じます。井戸端会議的、社外、組織外の人と会ってコミュニケーションがとれる。その活発な感じは、BIRTH内でも目にする事はありますか?
めちゃくちゃありますね。BIRTHには本当にいろんな人がいます。いろんなジャンルの経営者の人がすぐそこにいるので、いろんな話がすぐ出来ちゃう。外部からの刺激って新しいアイディアに繋がったりするじゃないですか。それを自分のビルでやってしまえば、めちゃくちゃ近い所に、めちゃくちゃ色々な人から、色々な事を聞ける。だからもう自分のための楽しい場所を作ってるっていうイメージですね。
ーー昔のmixiが流行ったころがそうでしたけど、SNSの良さって昔の知り合いだったり、遠くに住んでても繋がれて、そこで盛り上がってみたいな価値だったと思うんですけど、それが今みたいにリモートが進んでいくと、逆にSNSにあった価値がリアル側に移っているというか、逆になったというか。コロナで飲みにも行けないっていう状況だと、リアルで会う価値が高まりましたよね。なかなか会えない人に会えるmixiのワクワクが、今はリアルにあるというか。
そうですね。リアルなコミュニケーションってすごく大事ですし、感じやすい、伝わりやすいというのがありますよね。我々は「グラデーションある生活」って呼んでいるんですけど、オンオフのような二極じゃないところで得られる感覚や気づきとか、そう言ったものって凄く価値が高いなっていうのを実感しています。
「BIRTH IN-RESIDENCE」1Fにある「BIRTH DINING」
不動産はグラデーションある生活のための大切なチャンネル
ーー「パラダイムシフト新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう」で読んだんですけど、ワークライフバランスには違和感があるみたいな事を仰ってましたけど、ご自身的にはパキっとここで仕事終わりとかじゃない感じですか?
業務としての仕事はパキっと終わらすんですけど、脳が変わらないんですよね。パソコンでもバックグラウンドで動いてたりするじゃないですか、ああいう感じで。経営者だからって言い方はあまりしたくはないんですけど、経営者だから余計にそういうことが多いとは思いますね。ロングスパンで考えてる事がずっとバックグラウンドで流れたりするので、そこは完全にオフに出来ない。どこかで何かが繋がってったりしてるんです。オンオフの世界だと、それが気持ち悪いじゃないですか。オフれない気持ち悪さってありますよね。
でもグラデーションだと思えば、今は8:2ぐらいだと思えば、そんなに気持ち悪くないと思うんですよね。プライベートの時間の中で得たものがワークの方に凄く重要な情報だとしたら、脳みそ的に9:1にしていれば、1の所でキャッチできるんだけど、完全にオフにしていたらキャッチできない。そんなグラデーションの感覚で生きる事って気持ち悪くないんだっていう考え方なんですよね。
これからの不動産には、そういったグラデーションの感覚で生きるための大事なチャンネルだと思っているんですよ。ワークとライフの場所を作るんじゃなくて、8:2なのか6:4なのか、3:7なのかみたいな場所がもっとあって然るべきだし、そこに多様性も生まれる。不動産って全然多様じゃないんですよね。もっと今では考えつかないような場所がこれから絶対でてくると思いますよ。
麻布十番髙木ビル1Fの「BIRTH LAB」
ーーコロナでテレワークが推進されて、仕事とプライベートの場所も時間も曖昧になってきて、本当にグラデーションある生活の時代になってきてる気がしますね。そういう時代に向けての髙木ビルの今後の展望、展開もお聞かせいただけると。
我々がテーマにしているのは、ライフとワークの融合をどこまで進められるか。個人的なアイディアとしては、範囲を広げていくのが面白いかなと考えています。
範囲というのは街ぐらいの広さで規定して、その範囲の中で仕事もして、生活もしてプライベートもあるみたいなのが成立していると、個別の不動産の意味がなくなっていくんですよ。その街への入場料みたいなのが価値になってくる。
僕らはそれを街というよりも村って呼びたい。良い意味で村社会的な。コミュニティが存在してるイメージ。そんな村が出来れば、村の中で起きてる事が経済利益にも繋がったり自己消費にも繋がる。
例えば我々は麻布十番にビルを一棟所有してますけど、そこだけが自分たちの価値だと考えてしまうと、そういった考えに行きつく事はなかなか無い。街の中でどうあるべきか、街とどう繋がるかが重要になってくる。そう考えるとビルの1階の役割が変わってくると思うんですよ。1階は賃料が一番高く取れるので、既存の考え方だと、とにかく賃料高いテナントに貸すんだってなる。でも街との繋がりで考えると、1階は一番の入り口なので、自分たちの思いが一番詰まったもの作るべきだって考えに変わってくると思うんですよ。そういうビル作りをした方が、2階3階4階5階の価値が高まりますよねっていう考え方です。そういう事を麻布十番のビルで実践しているところです。
賃料の額だけで言えば、1階はコンビニやパチンコ屋さんが一番高いんですよ。我々は収益力はそこまで高くないけども、自分たちの運営するラボスペース(BIRTH LAB)として運用してるんですけど、そこが入り口になって無限に人と繋がっていけるような仕組みだったり、コミュニティを目指しています。BIRTHのロゴマークの梯子掛けの梯子の象徴たる場所にしているんです。
そうすることによっていろんな人に我々の存在を認知してもらえるし、その価値をシェアできる事になる。それが2階から上のフロアにも、髙木ビル全体を通してのバリューになっていく。発信拠点みたいな形になっていく。そうする事で新しいアイディアもいただける。今回のインタビュー、おおたしんじ君に繋いでいただいたのも、BIRTH LABでのイベントがきっかけで出会ったご縁から繋がって今日に至っているような話だと思います。
つまり、床面積に依存する不動産ではなくなっていっている感覚を持ってますね。賃料計算する時って、坪単価×何坪かで計算するのが一般的に知られてると思うんですけど。そうではない価値の計算の仕方、そうではない掛け算の変数がもう一個あるよねっていうのが、僕が不動産のこれからの未来だと思ってます。
ーー「村」のイメージのお話をもう少し詳しく伺っても良いですか
あえて村と言ってるのは、コミュニティの集合体みたいなイメージなんですよね。スキルのシェアというのも最近多いと思うんですけど、昔の村ではみんなやっていましたよね。そこにいる人たちが、不動産とか地域の価値になりますよね。
今後も、何で稼いで何を得ていくかっていう事は経済社会としては外せないんでしょうけども、誰といるかとか、誰と共に歩むかとか、そしてどこの方向に行くのかっていう事だと思うんです。我々はそれを「伴走」と呼ぶんですけども、誰と伴走して行くのかが、人生のワクワクする、活き活きするっていう指標に影響していくんだと考えています。
じゃあ誰と一緒にいるかってなると、場所が必要じゃないですか、会う場所だったりとか。待ち合わせしなくても会える場所ってどういう場所なんだってなると、まさにシェアオフィスやコミュニティスペースみたいな所の役割になってくる。不動産ってそういう規定できない目に見えない価値を、もっと内包できる可能性のあるチャンネルだと思っています。
古くからの価値を守る業界に片足置き、新しいクリエイティブな世界にもう片足置いて進んでいきたい
ーーオンライン、バーチャルの会社や世界にいると、どこでも働けるのがあるべき未来だと考えたり、コロナでリモートが推進されると、やっと時代が来たかとか考えるんですけど。でも、いざリモートになってしまうと、人に会える価値を感じた1年だったので、お話を伺ってハッとしました。今まで街や場所について考えなかった、場所に縛られない価値で考えていたのが、リモートによって場所の価値を考えさせるきっかけとなった気がします。
パンデミックの状況は非常に憂いてますけども、人の価値観、幅を膨らませるパラダイムシフトが起きる機会になったんではないですかね。
ーーリモートが推進され、都心じゃなくても良いと結果、街は選ばれる必要性が高まった
そのイメージです。街としてもチャンスなんです。
ーー選ばれるための街づくりをやってるという事なんですね
地方創生、地方創生と言っても全くどうすれば良いかわからない世の中だったんですけど、その地方創生の「地方」っていうのは都心もそうであって、「地域創生」って言わなきゃいけなくなっていて、地域創生を都心も含めて進められるかがポイントなんだと思いますね。
ーー何かの記事で、ニューヨークの事例を挙げられていたと思うんですけど
ニューヨーク、ブルックリン地区には若者が凄く集まっている。そこには何かに規定できない場所があって、そこに人が集まっている。それが日本人的には理解しづらい。ホテルのエントランスなんですけど、バーでもありカフェでもあり、図書館でもありショップでもある。そこに泊っている人も泊っていない人もたくさんの人が入り混じっている。この何かに規定できないんだけど人が集まるっていう事が凄く魅力を感じました。結局、規定出来ないから、いろんな人が来ちゃってるって事なんですね。日本では泊まらない人はホテルのここから先には入らないでって世界じゃないですか。泊ってる人しかランチできないレストランとか、仕切りたがる。
そうではなくて、誰でも集まれるパブのような場所を作っておいて、泊っていない人も楽しめるコンテンツがある。そういう感覚をニューヨークに行って凄く考えましたね。
ーーその違いって何なんですかね
日本ってどうしても規制とか法律が厳しい。だからこそ安全という側面もあるんですけど。うちの物件の話になっちゃいますけど、BIRTH IN-RESIDENCEは、働くと住まいのグラデーションを創ろうと建てたんですけど、建築許可としてはマンションなんですよ。だから賃貸借する時に事務所として賃貸借契約してしまったら建築基準法違反になってしまう。なので住居兼事務所という形態で契約するしかない。我々の本社の虎ノ門髙木ビルは事務所として建築確認申請を出して建築しているので、事務所として貸せるんですが、マンションを建てて事務所にしたらダメなんですよ。法律では複合用途を認めてないんです。それは避難経路や容積率のカウントの仕方も違ったりして、それとして建てたらそれとしてでしか使えない。さらに消費税の問題なんかもある。住居だと消費税はかからないけど、オフィス賃料には消費税がかかる。
起業して自宅の半分は住居として使っている場合のカウント方法もあるんですけど、ワークとライフがグラデーションになってくると、どこから何なのかわからないですよね。もう法律と生き方が噛みあってないんですよね。
法的な部分で言うとアメリカはじめ海外諸国は日本に比べると自由なので、色々な用途の場所が作れたりするという側面はあると思いますね。我々も今、ワークとライフのグラデーションをとは言っていますけど、法律的にクリアしながらやらざるを得ないので、凄く気持ち悪さを残しながらチャレンジしてる。もっともっと変わらなきゃいけないし、もっともっと新しい事を認めていかないと面白い物はできないですよね、日本では。
ーーそういう法律の所って実際に業界的に動いたりしてるんですか
一部してますけども、それに対する反発もいっぱいあるので、なかなか進まないんじゃないですかね。結局日本の行政の方向性ってリスクテイクを嫌いますよね。何かあったら問題だよねって。実際にトラブルになったりもする事もあるので、なかなか難しいでしょうね。
ただ個人的な見解としては、解放するエリアを作るべきだと思うんですよね。特定の地域を指定してOKにしましょうとか、戦略的にやれればいいはずなんですけど、どうしても公平感から一律になってしまう。もったいないよねっていう事はありますね。
本当にガチガチの中でやっているということが多いので、「髙木さんってチャレンジングだよね」とか、「髙木ビルさんってイノベイティブだね」って業界内でも言ってもらう事も多いんですけど。でもBIRTHで出会っている様々な業界のもっとイノベイティブな人たちや会社がいくらでもあるんで、そういう人たちと比べたら、不動産業界なんてもっと変えられるのに、全然変わらないよねって。そのもどかしさはずっと持ってますね。
でも僕、古い不動産の考え方も全て嫌いなわけではないんですよ。やっぱり日本人が長年培ってきたこの慣習って、人を守ったり、企業を守ってきたというのはあるんですよね。例えば賃貸借契約で言うと、追い出し、立ち退きが簡単にできなかったりします。賃借人が守られてきてるんです。だからこそいろんな人が路頭に迷わない社会でもあったりとかするんですよね。これが欧米だったらもうバチっと切られて、追い出されてって事があるわけなんです。
そういう事が日本ではなかなか無い、安全、安心という価値もあるので、古いものも大切にして、新しい価値と両方並行しながら作っていこうねっていうのが僕の考え方の根っこにありますね。古くからの価値を守るビル業界に片足を置いたまま、ベンチャーだったり新しいクリエイティブな世界にもう片足を置いて、両方ちゃんと足裏で感じながら進んでいきたいなと思います。
インタビュー後記
インタビュー企画5回目にして、本当に初対面の方とのZOOMインタビュー。初回の太田さんがご紹介いただきましたが、不動産会社の社長さんというのは、これまでの人生で接触したことのない方で若干ビビってました。
が、実際Zoomでお話すると、若々しくて、スマートで、エネルギッシュで。日ごろ目にする社長と呼ばれる人々よりよっぽどお話しやすい方で、勉強にも、刺激にもなって、あっと言う間に時間が終わってしまいました。貴重なお時間いただいて、本当に感謝感謝です。
僕の場合、住む場所の選択は、郊外で自然が近くて広い部屋で、でも満員電車に乗って職場に通う。もしくは、都心で通勤のストレスが少なくて、でも狭い部屋で人との距離が近い。そんな二者択一(もしくはお金を稼いで都心で広い場所に住む)だったと思っていたのが、コロナでリモートが一気に進んだことによって、郊外や地方に住んで通勤もなく、快適な日々が過ごせるって選択肢が生まれてきた。通勤さえ無ければ郊外派、山や海が近い場所に住みたい僕としては、(コロナはもちろん嫌だけど)リモートOKになったこの状況は非常に喜ばしい事でした。
が、そんな1年を過ごしていると、人に直接会わない、会えないと言う事はこんなにも楽しくなくて不便な事なのかと思う日々。満員電車に乗る日々も、時間に縛られる職場も嫌だけど、普通に人と会えたっていうのは、良かった過去だなーとも思ったり。このインタビューを通して、コロナ後の新しい未来、ニューノーマルのヒントを覗けたような気がしました。
人と会う、人とすぐ会えるっていうのはスゴイ価値。失って初めて大切さに気づけます。髙木さんが仰るような、ワークとライフがグラデーションな、刺激をもらえるような人とすぐ会える場所は憧れますね。
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