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獣の解体を始めて3ヶ月。鹿&猪を36頭バラした今、思うこと。

8月13日に初めて鹿を解体してから、ちょうど3ヶ月が経ちました。この間に解体した鹿と猪が合わせて36頭。3日に1頭以上のペースで解体してきたことになります。まさかこういう展開になろうとは思ってもみませんでしたが、日々次から次へと押し寄せてくる鹿、猪、鹿、猪・・を、ただただバラし、皮を切り裂き、肉を切り取り、持ち帰った肉塊をひたすら切り分け、洗い、磨き、凍らせ、そしてご近所さんから遠方の知り合いまで、女性から男性まで、子どもから老人まで、人間からワンちゃんまで、大量の肉をひたすら配って配って配りまくるうちに過ぎていった3ヶ月でした。怒涛の日々でありました。そして36頭を解体した今、少しばかりの思いを書き残しておきたい。

* 増え続ける害獣

山歩きが生活の一部である私にとって、山で鹿を見かけることは珍しくなくなりました。いや、ほとんど毎日のように見かけるようになりました。鹿だけでなく、猿の群れも時々見かけます。鹿に新芽を食い尽くされてハゲた地表、食い荒らされた樹皮、枯れ木の周辺で頻発する土砂崩れ、猪がほじくり返した獣道、猿が食い散らかした果物に野菜に・・と、挙げらしたらキリがありません。山の木々の幹には、鹿の食害を防ぐためにビニールテープがグルグル巻かれ、まだ背の低い植樹(苗木など)は、頑丈な柵で守られています。


害獣による農作物被害は、年間150億円程度と言われています。害獣対策費として多額の投資を迫られる農家さんもいれば、耕作を放棄する農家さんもいます。公園の花壇、家庭菜園の野菜、庭木に実った果物・・・など、農業従事者でなくとも、もう軒並みやられているという感じ。私の師匠である猟師さん(以下、師匠)は、植林したばかりの苗木(25万円分)を一瞬で鹿に食い尽くされて「もう黙っておれんわ!」と頭にきたことから、害獣駆除(狩猟とは違う道)に本腰を入れたそうです。


車で近所を走れば鹿が飛び出してきてヒヤっとしたり、犬の散歩をしていたら、大きな鹿の群れが草むらからぴょんぴょん!と飛び出してきてフェンスを飛び越え、隣の幼稚園の庭を突っ切っていったり(園児も保護者も直立不動)。鹿、猪、猿は、あまりにも身近な動物となりました。人々は役所や警察へ通報するようになり、役所や警察からは猟師さんたちに連絡が来るようになりました。こうして害獣が駆除されていっているわけです。

* 滋賀県の目標

私が暮らす滋賀県では、年間1万9000頭の捕獲目標(捕獲数1万6000頭)があり、私の地域の猟友会では年間150頭程度の鹿&猪を獲っています。でも師匠曰く、このペースで獲っていても、実感では毎年200頭くらいずつ増えていっているんじゃないか、と思うほど、鹿の数は増えています。

* 捨てられる害獣肉

全国で害獣被害が深刻化していることは、もう10年くらい前から知っていました。その中で、害獣駆除対策が進められていることも知っていましたし、駆除された鹿や猪の肉の多くが活用されず捨てられていることも知っていました。ジビエとして活用されているのは全体の1割で、9割の肉は捨てられている・・・と。そこでジビエ肉の食肉活用推進室などが設けられたりして、各自治体での取り組みも始まっているようでした。ただ実態としては、あまり進んではいないようです。

滋賀県の説明によれば、現在全国で活用されているジビエ肉は9%で、滋賀県に限って見ると、だいたい2〜4%(350頭程度)。つまり県内で捕獲駆除されている鹿&猪の96〜98%の肉は廃棄されているとのことでした。

「廃棄って言うけど、他所はこの肉どうしてるんやろう」と、ある時解体中に師匠に聞いてみると、市の要請では「土に埋めてくれ」と言われているが、自治体によっては「獲った鹿を冷凍車にどんどんどんどん溜めていって、いっぱいになったら焼却炉に持っていって燃やしている」と。「俺らみたいに、こんなにも肉を活用してるヤツ、他にはおらん。だって俺らは100%活用してるわけやから」と、師匠は自信たっぷりです。

* 野生と家畜の違いは「安定性」

解体を始めたそもそものきっかけは、完全なる他人本意によるものでした。同じマンションの犬友さんが、近所の農家さんが駆除した鹿の肉で鹿肉ジャーキービジネスを始めたことがきっかけ。農家さんとしては、農作物被害の防止策として鹿を獲っているが、肉は活用せず土に埋めており、もし解体とその後の処理(肉をとった後のゴミを土に埋める)をやってくれるなら、好きなだけ肉を持っていっていいよ、という話だったらしい。ただ、犬友さんご本人は週5で勤めているため、鹿が掛かってもなかなか解体にいけない・・・、というので、近所の暇そうな人に声が掛かったのでした。「アキさん、解体してお肉とってきてくれない?」と。

ところが、数ヶ月が経っても農家さんから連絡はなく、犬友さんからは「お肉の供給が止まってビジネスができない」という困った相談がありました。ぶっちゃけ私の知ったこっちゃないわ、とは思ったものの、何度か悩みを聞くうちに、つい動いてしまった・・・。私の知り合いの知り合いの知り合いの知り合いを辿る形で、現在の師匠と知り合うことになったわけです。私としては猟師さんも無事に見つかったし、両者(犬友さんと師匠)を引き合わせたらお役ごめんのつもりでした。仮に解体を手伝うことになっても、1〜2ヶ月に一度、年間4〜5頭くらい、犬友さん本人が都合が悪い時だけ緊急で手伝えば十分だろう・・・と思っていました。

ところがどっこい!師匠は害獣駆除を10年余りやってきたというベテラン猟師(猟師歴50年余年の72歳)で、年間の解体頭数が約150頭。8月13日に「やってみるか?」といきなりナイフを渡されて鹿肉を切って以来、私のところへは毎日のように電話がかかってくるようになりました。「おはようございます。今日は鹿さんです。1時間後、来れるか?」「おはようございます。うまそうな猪、二匹。軽トラに乗らはりました。すぐ来てくれるか?」といった具合に・・・。そして二人でひたすら解体作業をして、家に帰ったら肉の仕分けと掃除と冷凍をして、はぁ〜、と一息着く頃には日が暮れかけているという日々。加えて師匠は、「せっかく頑張って解体した絶品のお肉なんだから、犬なんかにやらず人に食べて欲しい」という思いと「ビジネスだなんだと儲け話で近づいてくるヤツらに対する警戒感」が人一倍強く、最初の2ヶ月は、ジャーキーで儲けたいという犬友さんを敬遠し続けました。だから代わりに私が毎日のように出動して解体をし、その肉を「無償で人に配って喜んで食べてもらう」という師匠の希望をかなえ続けて関係を築き、少しずつ態度も軟化してきたことで「じゃあ、そのジャーキーの人もいっぺん呼んであげるか?」というところまで漕ぎ着けたのでした。めんどくさいなぁ〜〜〜。

が、ここからがまた大変で、野生獣というのは家畜と違って、いつ掛かるか分からないし、掛かったらすぐ殺さなくちゃならないし、殺したらすぐに解体しないといけないわけです。だからサラリーマンだとなかなかタイミングが合わない。「掛かった!今すぐ来て!」という要請に、年間365日、毎日24時間付き合える人なんて、結局は私ぐらいしかいない。だからカフェで原稿を書いている途中でも、美容院で髪を切っている途中でも(ショートヘアだから「早く切り終えてください!」と言えばすぐ終わる)、ハイキングの途中でも、スーパーで買い物している時でも、「今すぐ来て!」と言われたら、すべてを中断して車をUターンさせ、すっ飛んでいって解体しました。それでも体調不良や用事で8頭分くらいは参加できませんでしたが、結果として36頭の解体に立ち会うことになったわけです。ちなみに犬友さんは、連絡して都合がついたのは1度だけでした。そういうわけで、私は自分の意志とはまったくの無関係に、この解体の日々に巻き込まれたのでした。

* ジビエは余っている肉なのか?

無償で獣を解体し、無料で肉を配りまくる。3ヶ月間それだけをやってきて、悩まなかったと言ったら嘘になります。お世話になった知人や仲良しの友人、近所の人たちが、喜んで食べてくれたことは何より嬉しかったし、硬い、臭い、と敬遠されることの多い野生獣の肉を突然受け取って、それでも手間暇かけてなんとか美味しく食べようと頑張ってくれた友人たち、「こんな風に食べたよー」「美味しかったよー」と写真を撮って送ってくれたみんなには、心から感謝しています。でも中には、お肉をタダでもらうことが当たり前になってしまったり、自然の贈り物なんだからタダでもらって当然だと考える人たちもいて、さらには、余って困っている肉をもらってあげているんだから、と考えるような、それこそいろんな人が、実にいろいろな態度でもって近づいてくることにもなりました。複雑な気持ちでした。そして3ヶ月がたった今、かつて師匠が言った言葉の意味がようやく身を以てわかるようになったのでした。

「余ってる肉やない。全然余ってなんかないで」

害獣の肉は捨てられている、余っている肉だ。だからジャーキーにしたらいい、だからビジネスをしたらいい、私もかつてはそんな風に思っていました。そうすることの何が悪いの?と。どうせ余ってるんだから、タダで配っても、タダでもらっても、犬にやっても、なんでもええやん、ええことしてるやん。どうせ余ってるんだから、捨てるよりはマシやんか、活用したらええやんか、と。

「捨てられるのはもったいないし、どうせ余ってるんやったら、少しでも活用できたらいいなと思って」

正論ぶってそう言った私に、師匠が「えっ?」という顔をして返してきたことがありました。解体を始めて間もなかった頃のことです。余ってる肉やない、全然余ってなんかない、と。

その言葉を聞いて、「えっ?害獣肉って余ってるんじゃないの?困ってるんじゃないの?」と一瞬首をひねったことを覚えています。でも、3ヶ月解体を続けてきて、余ってない、と自分でも思うようになりました。

放っておいたら捨てられる肉かもしれませんが、やっぱり丁寧に解体して頑張って調理すれば、本当に美味しい自然のめぐみです。私がお肉を配った友人知人の多くも、心ある人たちは「美味しかった」「貴重なお肉をありがとう」と喜んでくれました。栄養価に優れた良質なお肉。欲しい人だってたくさんいる野生のお肉。そして何よりそれは、師匠と私が朝から黙々と解体に励み、夕方まで肉の掃除をして、くたくたになって磨き上げたお肉です。

くる日も来る日も、必死になって肉を切ったよ。いつかかってくるとも分からない電話を、昨日も今日も、朝も昼も、臨戦態勢で待ち続けたよ。血まみれ、毛まみれ、ダニまみれになって、肉を担いで帰ってきたよ。家中に獣臭を充満させて、肉まみれになって仕分けをしたよ。風呂場をマダニが歩いていたよ。壁に飛び散った肉片がカピカピに乾いてこびりついていたよ。かわいそうに、うちの同居の姉ちゃんまで日々の肉洗いに巻き込まれたよ。そして夕方遅くに、肉クズにまみれ、獣臭に顔を歪めて、姉ちゃんはこう呟くんだ。

「お願いやから・・・夕飯は野菜にして」

ただただ格闘した3ヶ月。ベジタリアンになりかけた3ヶ月。でもジビエ料理の素晴らしさにも気づくことができた3ヶ月。スーパーで一度も肉を買わなかった3ヶ月。36頭を解体して、今、思うのは、

「どうせ余ってる肉やんか」なんて、やっぱり簡単には言われたくない。私はなんとかして、この貴重なお肉を味わい尽くしたいと思う。そして思いを共にする人たちと分かち合いたいと思う。ただ、それだけです。

* そして、これから・・・

3ヶ月がんばってきて、これからどうしていくのか、どうしたいのか、については本当に悩むところです。今のままボランティアとして続けていくのはさすがに無理ですし。でもお金が絡むと、それはまたそれで、ややこしい。師匠の気分や、地元猟友会との関係、自治体の意向、そして「害獣」だけど「金になる」というあたりから複雑化する利権をめぐる争い・・・。そういうものも既に見え始めていて、これは純粋に「害獣を駆除しましょう、お肉を活用しましょう、従事者の収入を確保しましょう」といったようなキレイな話ではないように思うわけです。私の場合は、いずれの利害ともあまりに無関係で時間だけがたっぷりあり、しかも真面目だったので、こうして日々の解体に呼ばれたという事実があります。ですが、そうでなくなった場合に立場的にどうなるのかは、実はかなり微妙です。(*害獣駆除は、駆除すると自治体から駆除費が出ますが、それを巡っても、多くの争いが勃発しているらしい。ちなみに師匠は完全なボランティアです。駆除した肉は、今のところ欲しい人は少なく、捨てられますが、これがうまく換金できるとなったら、またいろいろ揉めるんだろうな・・)

まあ、その辺は私にはよく分からないし、関わるつもりもないですが、解体作業をどうしていくのか、大量に手に入ったお肉をどんな風に活用するのか、については、今後、心ある友人たちの助言をかりつつ、できるだけ「美味しく、楽しい」使い方ができるように動かしていきたいなとは思っています。ただし、もし少しでも関係がこじれるようなことがあれば、私はその時はサッと手を引けばいい、とも思っています。もめ事は嫌です。縄張り争いも嫌。打算的な人たちと駆け引きするのも嫌。だからその日のうちに「今日で最後です!お世話になりました!さよなら!」と、爽やかに辞めるつもりでいます。だって、私には失うものが全くないですから。(笑)

ジビエの手引き *ジビエお料理リスト *ジビエをおいしく食べるコツ




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旅人/作家/害獣解体作業人/木こり 著書:インパラの朝、リオとタケル、N女の研究、ラダックの星、など。訪れた国:約100ヵ国。他に、駆除害獣(鹿&猪)の解体とジビエ肉の配布、また伐採など森の整備をやっています。https://akinakamura.net/