脱貨幣経済、やってみた。
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脱貨幣経済、やってみた。

中村安希

猟師の師匠が亡くなって、ちょうど半年が経ちました。亡くなった直後には「これで鹿の解体も終わりだな」と思い、冷凍庫に残っていた肉も全部配りきって、一旦は冷凍庫の電源を落としました。でも結局10月から再びやることになり、現在は猟友会関係者の元で解体を続けています。

それでね、今でもよく思うんですよ。なんでこんなことやってるんだろう?って。作業には時間も労力もすごくかかるし、野生獣肉を精肉にして配ろうとすると、お金だって結構かかる。そんなことをずっと続けて、いったい何になるんだろうって。

* 鹿肉タダで配ります

2020年8月に師匠から「はい」ってナイフを渡されてから、師匠が倒れる翌年4月まで(8ヶ月間)に86頭。一時中断を挟んで再開後に24頭。計110頭の鹿(猪)を解体して、その肉を配り続けてきました。冷凍便で送った肉が40箱以上、重量にして約200キロ。手渡しでもたくさん配ってきました。犬用の肉も入れたら、のべ150〜200世帯くらいに少なくとも500キロ以上の肉を配ってきたと思います。

あの、別にこれ自慢してるわけでも、努力を認めてもらいたくて書いてる訳でもないんです。ほんと、全然そういうのではないんだな。単に数値的な事実を並べているというだけで。

自分が今やっていることに対して、「だから何?」って言われたら、返す言葉はありません。バカじゃないの?って言われたら、小さく頷くことしかできないです。ただ、それなのになぜ続けてるんだって訊かれたら、面倒だけど、でもどこかちょっとオモロいからって、たぶん答えてしまうでしょうね。そうでなきゃ続いていないだろうし。じゃあ、何がオモロいのかと訊かれたら……。う〜ん、たぶんこの意味不明な感じ、非常識なところがオモロいのかもしれない。

* 貨幣ガン無視でお肉を回す

普通は労働したらお金をもらうじゃないですか。お肉を誰かに送ったらお金をもらうじゃないですか。そうやって労力や時間を数値化し、対価という別の数値=お金で、価値を相殺するというのが、私がこれまで生きてきた社会の常識だったんです。でも今は亡き私の師匠は、その真逆をいく人でした。

私の師匠は栗田さんといいます。山の中に自力で家を建てて住んでいました。猟師歴は50年、害獣駆除には8年ほど関わってきた人でした。8年間で捕獲した(または引き受けた)鹿(猪)は、1000頭以上。その肉を全て無償で配り続けてきた人です。(*駆除に支払われる補助金は猟友会に入るので、栗田さんの懐には1円も入っていません)

だから栗田さんと関わった当時は、なぜタダで働くのか、なぜタダで配るのか、全然意味が分かりませんでした。栗田さんは、

「だってええ肉やんか、うまいやないか。ええやろ〜」

って言ってましたが、彼は自分で捌いた肉を実はほとんど食べていなかった。栗田さん、トンカツとか牛すじ煮込みが好きだったんですよ・・・。それなのにせっせと鹿を集めて、肉を配り歩いていたんです。栗田さんのところへは「お肉を売ってくれないか」という人も多数接触してきました。実際、私もたまに言われます「売って欲しい」って。でも栗田さんは絶対売らなかったし、だから私も売りません。タダで欲しいならあげるけど、お金は受けとらないんです。タダで解体作業はするけど、タダで真空パックもするけど、発払いでお肉も送るけど、お金だけは払ってくれるな、というわけです。おかしいでしょ?

* 理解できることは、すぐに飽きてしまうんだ

亡くなって半年が経った今でも、よく栗田さんのことを考えます。解体もいっぱい一緒にしたけど、毎日だらだらおしゃべりもしました。長い時なんて4時間くらいしゃべってたからね。どんだけ暇やねん、うちら!(笑)みたいなね。何であんなことしてたんだろうって、なぜ今も続けてるんだろうって考えると、やっぱり「謎」だったからですよね。彼がもし普通の人で、「どうやって肉をマネタイズするか」とか「作業効率と収益を上げるか」とか「時給いくら払おうか」とか「社会貢献、地域還元しようか」とかなんとか、そんな感じの人だったら、私はすぐに彼のことや彼のやろうとしていることを理解できたと思うんです。でもすぐに理解して、解決策を探して、飽きて、あほらしくなって辞めてたと思う。1円でも受け取ってたら、もう今頃続けてないですよ。だってそんなの普通だもん。今までずっと金もらって生きてきたんだからさ、もらっちゃったら普通だし、そこには何の新鮮味も面白さも葛藤も混乱もない、考察も悩みも生まれないですから。

そんなわけで、私は今、自分でもイマイチ理解できていないことを、理解できないなりに、理解できない面白さを味わいつつやっています。お金を介さずお肉を回す。この行為に名前をつけるとしたら「脱貨幣経済」になるんでしょうけど、もちろん栗田さんは「脱貨幣経済ガァ〜」とか「脱市場経済ガァ〜」とか「新しい資本主義ガァ〜」とか、そんな事は一言も言ってなかったです。「肉うまいやろ〜」しか言ってない。

それに私も栗田さんも、「お肉配り」も「タダ働き」も人に勧める気はまったくないです。こういう経済のあり方を世に広めたいとか、そういう意識もないです。お肉を売っている人(畜産業者や精肉業者やジビエ産業従事者)には、美味しいお肉生産して売ってもらって感謝してます。栗田さんはトンカツや牛すじ煮込みが大好きで、実際お金も好きでした。私も彼と同じです。お金大好きです。ただ、オモロいことはもっと好き。ただそれだけのことです。





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