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入口で不良がたむろするコンビニ

 例えば、お着物とか。
 宝塚とか。ガンダムとか。
 長く続いている文化や作品についてSNSで議論していると、必ず出てくる言葉がある。皆さんもどこかで見聞きしたことがあると思います。もはや定型文と化した感がある。

 初心者に上級者がいらないアドバイスやお説教をするな。
 ルールを押しつけず、自由な楽しみ方を許容しよう。
 ご新規さんに優しくないジャンルは衰退するぞ。

 これらは確かにその通りだし、私も強くそう思っていた。いまも思っています。作家の端くれなので、本については特に、恐がらないで、構えないで、気軽に読んでほしいといつも願っている。
 だがしかし。
 最近は、カスタマーハラスメント的というか、部下から上司への逆パワハラ的というか、初心者のほうがあまりにも横暴すぎる場面を見かけるようになった。

 シャトー・マルゴーとかオーパス・ワンといった高級なワインを買ってきて、リアルゴールドで割って、大衆居酒屋のカクテルみたいにして「甘くておいしい、ワインは苦手だけどこれなら飲める」という楽しみ方をするのも自由です。自由だけど、買ったものをどう扱おうと勝手という理屈は、個人的に私は好みません。生産者への敬意があまりにもなさすぎる。
 そのものの持ち味をまったく活かさない楽しみ方はあきらかに「損」じゃないですか。誰も得してない。
 服だって、コレクションで発表される、素人からしたら「ふざけているのか?」という珍奇なデザインがあってこそ、そのセンスをリアル・クローズに落とし込むことで、素敵なファッションを私たちが日常で身に纏えるのではないだろうか。

 上級者が初心者をバカにするのはよくない。
 でも、初心者が上級者をバカにするのもよくない。
 どっちも必要だし、お互いに尊重しようという話をしています。

 そのジャンルの、楽しむためには教養が要る部分を……押しつける行為ではなく、上級者向けの部分そのものを「そんなのくだらない!何かを楽しむのに勉強なんかする必要ない!老害の言うことは無視!楽しみ方は自由!自由ったら自由!」と全否定するような横暴な初心者が、少しずつ増えてきたように感じている。たまたま私の視界にいただけで、ごく少数かもしれないけど。むしろそうあってほしい。
 誰もが必ず趣味や知識を究める必要はない。関わり方は自由。
 でも入口からさらに奥へ行く人が一定数いなければ困る。
 作法を究めること、歴史を学ぶことをわざわざ阻害するような初心者ばかりだったら、やっぱりジャンルは衰退する。
 その文化が、マナーの悪い初心者のせいで、傍から見て「そんなに面白いものではなさそう」「その程度の楽しみしかないジャンルなら入門しなくていいや」と思われるのは、困るんです。

 入口で不良がたむろするコンビニにお客さんが入りますか。
 都市なら数十メートル先にある、他のコンビニに行ってしまうよ。


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