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やっとスタートラインに立ったHPVワクチン政策

2021年11月26日、約8年間続いたHPVワクチンの定期接種の「積極的勧奨の差し控え」が廃止されました。

ヒトパピローマウイルス感染症に係る定期接種の今後の対応について
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000858774.pdf

「ヒトパピローマウイルス感染症の定期接種の対応について(勧告)」(平成25年6月14日健発0614第1号、令和2年10月9日健発1009第1号一部改正厚生労働省健康局長通知。以下「平成25年通知」という。)において、ヒトパピローマウイルス感染症に係る定期接種の対象者又はその保護者(以下「対象者等」という。)に対し、予防接種法第8条の規定による当該接種の勧奨を行うに当たっては、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)は、接種の積極的な勧奨とならないよう留意すること等の対応を勧告してきたところである。

(中略)

以上を踏まえ、平成25年通知は、本通知の発出をもって廃止する。

「積極的勧奨の差し控え」の廃止、つまり、他のA類疾病と同様に勧奨することになりました。

本通知の要点を以下にまとめます。

●各自治体が行う個別の勧奨は、基本的に令和4年4月から順次実施する(前倒しも可能)

●14歳~16歳への個別の勧奨は、HPVワクチンの供給体制などに配慮しながら行う(ワクチンの供給量が不足する恐れがあると想定されている?)

●ワクチン接種後に体調の変化が現れた場合の医療提供体制について、関係者と十分に連携してこれを確保する

●キャッチアップ接種の詳細は今後検討を進める

―――以上、要点まとめ―――

本通知が発出される前段階として、副反応検討部会での議論がありましたので、11/12の議事録を拾っていきます。

(議事録) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22253.html

(資料) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208910_00034.html

資料1、9ページ目

HPVワクチン接種後に生じた多様な症状と
HPVワクチンとの関連についてのエビデンス
がこれまで認められていないことなどから、
現在のエビデンスによれば、ワクチンの安全
性についての特段の懸念は認められない。

HPVワクチン接種後に多様な症状を訴える事例があったことから、このワクチンの安全性について評価が重要であるのは、言うまでもありませんが、8年もかけて知見を収集した結果、「特段の懸念は認められない」とされています。

その上で、安全性の再評価のサイクルを狭めていってはどうか、との意見も出ていました。

濱田委員「ほかの定期接種のワクチンのサイクルですと今、結構間が空いてしまうと思うのです。ですから、その辺のサイクルをもう少し狭めて、もし再開した場合には、ほかの定期接種とは別に安全性の再評価をしていく、そういう方向を考えられたらどうかと思っております。」

積極的勧奨が再開された後も、安全性の評価については、かなり慎重に行うようです。

また、ワクチンの接種の有無に関係なく、多様な症状が出ている人へのケアについて意見が出ていました。

岡委員「この部会で言うべきことではないのかもしれませんけれども、私の立場からすると、むしろ予防接種を打ったから、打っていないからということでなく、多様な症状が出ている方にしっかりと診療できる体制をつくっていく、そういうことの中に、この予防接種を打った後にそういった症状を訴える方がいらっしゃったら対応するという、そういった医療の枠組みの中に入ってくるのではないかと私個人としては考えております。」

これは全くそのとおりで、現実として、ワクチン接種に関係なく、多様な症状が出ています。

ワクチン接種後に出ている症状だけに着目してしまうと、未接種で多様な症状が出ている人へのケアを見落とすことになりかねません。

https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000088972.html

名古屋市_子宮頸がん予防接種調査_回答集計結果-26_OR
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No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5887012/

また、ワクチンの接種回数についての意見がありました。

多屋委員「有効性と安全性に関しての両方に関わるのですけれども、海外ではほとんど若い女性については接種回数が2回になっています。3回を2回にしたときの有効性なども、日本ではどのようにすればそれができるのか、3回を2回にしたときに有効性が変わらないということを出さなければ変わらないということであれば、かなり長くかかってしまいます。結構1回目から接種後の痛みが強いワクチンですから、回数が少なくなるということについては、安全性の改善にもつながるのではないかと思いました。」

2回で済むならそれに越したことはないので、最適な接種回数についても、検討していってほしいところです。

さて、政策的な今後の課題について述べます。

2020年1月21日、日本産科婦人科学会が厚労省の担当者宛に要望書を提出しています。

https://www.jsog.or.jp/news/pdf/20200121_youbousho.pdf

1.HPVワクチンの積極的勧奨の速やかな再開
2.HPVワクチンの接種促進(再普及)
3.積極的勧奨一時差し控えによる情報不足のためにHPVワクチンを接種しないまま定期接種対象年齢を越えた女子に対する、定期接種に準じた接種機会の確保
4.9価ワクチンの早期承認、定期接種化
5.男子への定期接種
6.積極的勧奨一時差し控えによる情報不足のためにHPVワクチンを接種しないまま定期接種対象年齢を越えた女子に対する、子宮頸がん検診受診勧奨強化
7.メディアや国民に対する、子宮頸がんやHPVワクチンおよび子宮期頸がん検診に関する適切な情報提供(がん教育を含む)

現状どうなっているかというと、

1はクリア

2はいずれ接種率は上がっていくでしょう

3は検討中

4については、9価ワクチンは女性のみ承認されましたが、定期接種化は未だにされていません。

5は未実施

6は寡聞にして知りませんが、どうなっているのでしょうか?

7はリーフレットの改定などを行って情報提供に力を入れていますが、引き続き取り組みが必要でしょう

以上のように、未実施の項目が残っていることから、積極的勧奨の再開は、スタートラインに立ったところだと言えるでしょう。

個人的には、今後、ワクチンの供給体制がネックになってくることを心配しています。

<20220617追記>

2022年3月4日に開催された「第18回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会」の議事録がアップされましたので、注目点を拾っていきます。

資料

議事録

○氏家委員 ありがとうございます。
最後のHPVワクチンが2価・4価・9価と3種類日本で流通している中で、定期接種にどれを用いるべきかという観点に関していえば、定期接種のプログラムでの使用を検討した、先ほどのファクトシートの中で9価の費用対効果が最も高いことが示されていますので、そういう意味では当然有効性が高い、つまり遺伝子型を広くカバーする9価を中心に使用していくことが望ましいだろうと思います。

男性適応という観点で4価の使用対象が残るわけですが、定期接種の中では費用対効果の高く、予防できる遺伝子型のカバー率が高い9価、多価のワクチンを使用していくべきだと考えます。

○多屋委員 ありがとうございます。
9価のHPVワクチンの方が4価よりも子宮頸がんの原因となるHPVの型の多くをカバーしていますので、定期接種は9価ワクチンを使う方針で進めていっていただきたいと願っております。

多くのハイリスクの遺伝子型をカバーする9価ワクチンの定期接種化について、前向きな意見が出ています。

○氏家委員
現時点で4価が男性の接種適応を取っているというところがありますので、今、9価をどうするか、そして、9価の対象である女性を前提とした現在の検討ということで理解してございますが、懸念点とすれば、今後日本の定期接種プログラムに男性を含めて行っていくかどうかは併せて考えていくべき内容かと思います

9価ワクチンの男性への定期接種化を検討すべきという意見が出ています。これは前述した要望書の4番、5番に関連する内容です。

○多屋委員 ありがとうございます。
9価を使うという方針がまず決められた場合は、次は接種回数ではないかと思っています。現在3回ですけれども、2回接種を視野に入れて検討を進めていただきたいと思います。その次に、キャッチアップ接種でどのワクチンを使うか。それは供給量等の観点が必要になると思います。3つ目が男性の接種をどうするか。この3つについては検討が必要ではないかと思います。

・3回接種から2回接種の検討
・キャッチアップ接種に使用するワクチンの種類(+供給問題)
・男性接種
これらの論点が示されました。

今後のワクチン政策の動向にも注目です。

るんるーん♪