成果志向とダイバーシティ&インクルージョンの関係について
数年前のある日、後輩社員にこう言われた。
「マッチョな文化ですよね」
当時私は、新規事業の立ち上げに夢中だった。社会課題を解決する事業であると確信しているものの、なかなかサービスの価値を理解してもらえなかった頃から、少しずつ契約数が増え、手応えを積み上げていた時期だった。リソースも仕組みも時間も足りなかったけれど、楽しかった。一方、事業継続のために黒字転換を目指し、成果がすべてだと自分を追い詰めてもいた。
すべてが全然足りなかった。
そんなんだから、「マッチョな文化」と言われたとき、「え?これがマッチョな文化なの?そうなの?どこが?むしろ全然足りないんだけど!」と思った。
どんな返答をしたかは覚えていない。
いま振り返れば、ベンチャー的な同質性の高さに疑問を持たず、適応して働いてきた。例えば、「(残業時間も含めて)働きたい人が思い切り働く」という当時のカルチャーを、そんなもんかと思っていた。
最近、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)担当の方々と話すことが増えた。たびたび「経営層にD&Iの話が通じない。この話の通じなさはどうしたものか」という相談を受けるけれど、その、話の通じなさの筆頭が自分であることを胸に刻んでいる。
成果がすべてだった頃、同質性の高さに疑問を持たなかった
私がはじめてダイバーシティを意識したのは、2015年にグループ経営会議に参加させてもらうことになったときだった。10名近くの男性に対して、女性は自分1人だった。
誰に何を言われたわけではないのに、なんだか困るなと思った。私には、女性ならではの視点とか、そんなものはないと思った。
フリー・フラット・オープンな環境だったと思う。それには完全に合意だが、しかし、いざ女性1人という場におかれたら、自分のマイノリティさが気になって仕方がなかったのである。
一方で、女性が1人という編成には疑問を持っていなかった。
働き始めたとき、経営会議に女性が1人参加していた姿を見ていたのは幸運だった。いつか私も経営会議に参加してみたいなと、どこかで、少しだけでも思えていたから。
しかし、経営会議に女性が少ない、あるいは皆無であることについて、それはそういうものだとしか思わなかった。むしろ、成果を出している女性がいないからだと思った。
なぜ、意思決定層に女性が少ないのか、その構造に目を向けることはなかった。
成果を出すために、それぞれの事情を受け入れていた
大きな転機は、管理部門の立ち上げだった。このプロジェクトは、3人のチームから始まった。私以外は全員、子どもを持つ女性社員だった。
それこそ私は、「(残業時間も含めて)働きたい人が思い切り働ける」環境がベンチャーの醍醐味だとすら思っていたのだが、しかしこの価値観を貫き通しては、チームが立ち上がらないことに気づいた。
彼女たちが、就業時間内に仕事が終わるように時間対成果にこだわって仕事をしていることを知った。子どもが体調を崩すと、互いに声をかけて助け合っていることを知った。一方で、時短で働いていることに申し訳なさを感じていたり、自身のキャリアの発展を描けていないことを知った。
こういった声なき声と触れながら、会社基盤のミッションに「ひとりひとりが働き方・キャリアを自分でつくる」を掲げた。そういう会社をつくりたいと本気で思い、ライフステージに合わせた制度設計、キャリア開発支援、情報発信に取り組んだ。
その後も、子育てだけでなく、身内の手術や介護など、メンバーの数だけライフイベントがボコボコ起きた。それらを受け入れるチームづくりをしたつもりだが、しかしそれも成果ありきの思考だったと思う。あくまでも、成果を出すためにそれぞれの事情を許容する。それ以上でも以下でもなかったように思う。
D&Iな関係が、思ってもみなかった未来をつくるという感覚
2020年からは、経営層の多様化をライフミッションに据えて、D&Iに関するインプットと、少しばかりのアクションを始めた。
最初は、性別、年齢や人種といった外見から識別可能な表層のダイバーシティの観点しか持っていなかったが、経営層の多様化を阻む構造的な課題を考えるようになった。そして、深層の部分で理解しあうことから新しい事業価値が生まれる瞬間に立ち会った。
成果を出すためにそれぞれの事情の多様さを受け入れるというスタンスから、ひとりひとりの深層を応援し合う組織をつくることで、合理的に策定された計画に加え、D&Iによって持続的に価値創造をしていく経営サイクルをつくりたいという思いが芽吹いている。
私はいま、みんなのコードというNPO法人の経営にも携わっている。4月1日に、#AprilDream という企画に参加しプレスリリースを出した。
文中にこんな表現がある。
これは私の思いでもある。
そして個人としては、結果として、意思決定に参画する女性が増えたら嬉しい。
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