見出し画像

現実を変えるドキュメンタリー「東京クルド」 上映&日向史有監督コメント

見て良かったと思えるドキュメンタリー映画には、映画に”その後”がある。
この映画もその1つだった。

日本には、数は少ないけど難民がいる。
さらに、”難民”として認められていないけど日本で生活する、“仮放免”の人もいる。映画に登場する2人のクルド人青年、オザンとラマザンは“仮放免”だ。

”仮放免”を一言で言うなら、
「人として扱われない」ということ。
仕事もできないし、いつ入国管理局に収容されるかもわからない。それが彼らの日常で、映画にはその日常が映し出されていた。

「人として扱われない」生活がどのようなものなのか。日本人として生まれ育った私には、映画を見て、彼らのやるせない思いを想像することしかできなかった。

ただ、映画の中には「絶望」しか描かれていないのかというと、それだけじゃないんだ、ということは伝えておきたい。
映画を見ると、そんな彼らの気持ちを感じ取ることができる。

【12月3日の上映後 日向監督が登壇!】

映画を見終わった観客の質問1つ1つに
丁寧に答える日向監督。

Qこの映画撮影のきっかけは?
日向監督:2015年、欧州難民危機が日本のメディアでも報道されていて、映像を見て漠然と難民という存在に興味を持った。
日本でも難民と呼ばれる人がいると知っていたが、会ったことも話したこともない。
なので1回話聞いてみたいということから始まって、「クルド友好協会」という場所が、
日本に住むクルドの人の寄り合い所になっていて、そこに通わせてもらいながら話をしていく中で、「日本でどういう風に将来生きて行きたいか?」という話をすると、ほとんどの子が、「日本で何したらいいか分からない」「居場所がない」「シリア、イラクに行って、ISIS(イスラム国)と戦いたい」と。
どういう事かと言うと、当時シリア紛争の混乱をきっかけに、クルド人自治区にISISが入り込んで、クルド人の住む地域を攻撃していて、その最前線で戦っていたのが現地のクルド人だった。世界が絶対悪としたISISと戦っているクルド人たちに、全世界が光を当てた。
そこに対する憧れを、遠く離れた日本にいるクルド人の若者たちも持っていて、シリア、イラクに渡ってISISと戦いたいと言う子が多くて、僕自身はその言葉がすごくショックで。
日本は平和で安心安全な場所だと思って生きていて、命を落とす危険のない日本にのがれてきたのにも関わらず、戦場に行きたいと若者たちが言っている。
「日本の何が、彼らにそういう言葉を言わせるのか」と。それが知りたくて、この映画をやり始めた。

Q映画に出ていた2人のその後は?
日向監督:ラマザンは、専門学校を卒業してビザを取りました。(会場から拍手)
ビザをとれたことはすごく喜ばしいが、本人たちは納得いってない。
映画に出てきた裁判は家族みんなの裁判。
結局、ビザが出たのはラマザンと弟だけ。
それも、裁判で勝ったからではなくて、裁判の経過の途中で入管側から、「ラマザンと弟にビザを渡すが、裁判を続けるか」という提案があった。
これは想像だが、要は前例を作りたくなかったのでは。あくまで入管の裁量権の中で、あなたたちにあげますという判断。妹がビザをもらえなかったことで、ラマザン自身は憤っている。

オザンの状況は、変わっていない。
しかし今は、映画で一緒に登壇することもある。皆さんに見てもらって、話す機会を得て、自分の存在を認めてもらっているのが、肯定感につながっているようだ。

◆映画「東京クルド」2021年公開
日本で生きるクルド人青年2人を5年以上にわたって取材し、難民に対する日本の現状を映し出したドキュメンタリー。
難民認定率が1%にも満たない日本で生きる2人は仮放免許可証を持つが、許されているのは「ただ、いること」。
いつ入管に収容されるか分からない不安を常に感じながらも、2人は日本で夢を描く。
改正入管法が可決された今、彼らはどうなるのか。
第39回日本映画復興奨励賞受賞、韓国・第23回全州国際映画祭審査員特別賞受賞。

東京・渋谷のユーロスペースで再上映中。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?