【半自伝・まえがき】運転ができない、あの子のドライブ
数年前に書いた原稿は、今はもうあっという間に色褪せて、何かしら公開するなら、すべて読み直して書き直すだろうと思っていた。完成している小説もあれば、断片的なストーリーもあり、それらのすべては物語であり、ライフストーリーだ。
2冊の本を出版して、よく聞かれることがある。
「これはフィクションですか? ノンフィクションですか?」
「実際に経験したことをモデルにしたところもあるけれど、物語として整理している部分もあります」
私は、いつも、そう答える。
ものとして形にするならば、きちんと整えなければいけない。当時の私はそう思っていた。もちろん、整えることで身に着いたものもある。けれど、本当は、同時にこうも思っていたのだ。
ねえ、それって整えなきゃいけない? 私、ちゃんと、パッケージされなきゃいけない?
パッケージされた商品の美しさも、知っている。今まで出した本も大好きだ。何ひとつ、後悔はない。
けれど、何だか、ドライブしたくなったのだ。無性に。
昔から、音楽に憧れていた。リアルタイムで聴き手がいて、同じ場所にいながら互いにドライブしていくそのさまは、小説や文章ではできないことだったから。
けれど、今なら、小説や文章でも、できるんじゃないかな。気の向くまま、ドライブをしてもいいんじゃないかな。
物語という名のライフストーリーで。
ちなみに私は車の免許を合宿で取りに行った時、教官に「本当ならきみに免許をあげたくない」と言われるぐらいに運転ができない、ぴかぴかのゴールド免許の持ち主だ。
運転ができない、あの子のドライブ。
気の向くまま、お付き合いください。
作家/『ILAND identity』プロデューサー。2013年より奄美群島・加計呂麻島に在住。著書に『ろくでなし6TEEN』(小学館)、『腹黒い11人の女』(yours-store)。Web小説『こうげ帖』、『海の上に浮かぶ森のような島は』。