万葉集 五-892「貧窮問答歌」

こんなにもどうしようもないのか。
人生というものは。

万葉集 五-892首
貧窮問答歌(山上憶良)
凡そ1300年前、重税にあえぐさまを
詠った、最古の詩。

当時の役人と農民のやり取りを詠んだ。
国司であった山上憶良がその実態を見て、役人の立場、農民の立場を汲んで詠んだ(と思われる)。

当時は租庸調制の他に出挙(すいこ)と呼ばれる貸付があった。(農奴のようなもの)
穀物の貸付について、当初農民を救済するためだったが、戸籍の作成などの手間がかからないことなどの理由から、
強制的に貸付されるようになり、百姓がどんどん疲弊していきました。
穀物の利息は公的な出挙(公出挙)では50%、私的な出挙(私出挙)では100%と高利で、
税率の修正も試みられましたが、平安時代に入るまで実質50%のままだった。

■ 訳

嵐の吹く夜、みぞれの降る夜は、どうしようもなく寒いので、未精製の塩を舐めながら、
酒粕を溶かしたお湯を啜り飲みながら、咳こみ、鼻水をすする
無精ひげを掻き撫で、自分より立派な人物はいないと虚勢を張ってみてもやはり寒いので、
粗末な布団を頭までかぶって、破れた衣をありったけ着込む。
寒い夜なのに、私より貧しいあんたの親は飢えと寒さに耐えておられる。
お前の妻子たちは世間を憂い許しを乞い、泣いているのだろう。
このような時分、あんたはこの世をどうやって過ごしているんだ?

世界は広いといっても私にとっては狭い。
太陽や月は明るいといっても私にはそそがれない。
皆そうなのでしょうか、それとも私だけなのか。
たまたま人として生まれ、人並みに成長したが、
綿も入っていない布肩衣の、海藻のように破れて
垂れ下がっているボロ布だけを肩に掛け、
みすぼらしい歪んだ家の中に地面の上に藁を敷いて、
両親は頭の方に、妻子は足の方に私を囲んで座り、
思い悩み、ため息をつく。
かまどは火を入れられず、釜には蜘蛛の巣が張り、
飯を炊くことも忘れて、力無い声を出すと、
「短ものを端切る」の如く、鞭を持った役人が
寝床の入口まで来て、叫んでいます。
こんなにもどうしようもないものなのか。
人生というものは。

■ 原文
風雜 雨布流欲乃 雨雜 雪布流欲波 為部母奈久 寒之安礼婆 堅塩乎 取都豆之呂比 糟湯酒 宇知須々呂比弖 之口夫可比 鼻比之比之尓 志可登阿良農 比宜可伎撫而 安礼乎於伎弖 人者安良自等 富己呂倍騰 寒之安礼婆 麻被 引可賀布利 布可多衣 安里能許等其等 伎曽倍騰毛 寒夜須良乎 和礼欲利母 貧人乃 父母波 飢寒良牟 妻子等波 乞々泣良牟 此時者 伊可尓之都々可 汝代者和多流
天地者 比呂之等伊倍杼 安我多米波 狭也奈里奴流 日月波 安可之等伊倍騰 安我多米波 照哉多麻波奴 人皆可 吾耳也之可流 和久良婆尓 比等々波安流乎 比等奈美尓 安礼母作乎 綿毛奈伎 布可多衣乃 美留乃其等 和々氣佐我礼流 可々布能尾 肩尓打懸 布勢伊保能 麻宜伊保乃内尓 直土尓 藁解敷而 父母波 枕乃可多尓 妻子等母波 足乃方尓 圍居而 憂吟 可麻度柔播 火氣布伎多弖受 許之伎尓波 久毛能須可伎弖 飯炊 事毛和須礼提 奴延鳥乃 能杼与比居尓 伊等乃伎提 短物乎 端伎流等 云之如 楚取 五十戸良我許恵波 寝屋度麻テ 来立呼比奴
可久婆可里 須部奈伎物能可 世間乃道

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