星の王子さまとフランス語
フランス語を学び始めてまだ間もない頃、星の王子さまと出会った話。
作者はアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ、フランスの飛行機乗りで作家。1944年、偵察機に乗って出たまま姿を消したという逸話のある人物です。
私がフランス語を学び始めて、初めて買った参考書が、かの有名な「星の王子さま」を題材にしたものだった(その昔、勉強も兼ねて英語で読もうとして数ページで挫折、その後全く読んだことがなかった)。一見して、当時入門レベルだった自分にはまだ早い内容であることは明らかだったが、なぜそれを選んだかというと、載せられていた訳文が雰囲気のある素敵な文で、もっと読んでみたい、と思わされたからである。
今まで英語の勉強も含め、参考書に書かれた文章の「言葉の響き」に惹かれたことなど一度もなかった。
中でも好きなものを幾つか書き出してみる。
"J’ai le droit d’exiger l’obéissance parce que mes ordres sont raisonnables."
「わしが服従を要求できるのは、わしの命令が道理をわきまえているからだ」
王子さまが旅に出て巡るさまざまな星の中の一つ、王さまの星にいる王さまの言葉。
道理とはそもそも何であるか、定義が問題になりかねないけれど、基本的に人は、自分の心の中に「道理」の感覚を持っている、と個人的には信じている。自分の感情や行動がそれに背いた時、何も言わずとも、他の誰が気づかなくても、自分だけは気づいてしまう、あの違和感。そこに居続ける限りずっと「本当にそれでいいのか?」と自分に問い続けて来る妙な感覚。道徳として教わるようなこととは違う、もっと本質的なもの。
ちなみに、王さまの星には王さま一人しかいない。さらに王さまは王子さまを気に入ったのか、司法大臣に任命しようとして、あっさり断られるという、どことなくチャーミングなお人柄。
"Les grandes personnes ne comprennent jamais toutes seules."
「おとなって、ひとりでは何もわからない」
参考書に取り上げられた範囲しか読んでいないけれど、全体を通して「こども」礼賛の本であると感じる。おとなは表面的な事柄で物事を判断し、本質を見失っているが、こどもはそれとは対象的な存在として描かれている。うーん、そこまでかなぁ、というのが正直な感想。というのは、ここで描かれた通りの「おとな」は勿論珍しくないけれど、「こども」が皆そうかというとそうでもない気がするし、要するに「おとな」と「こども」で全て括ることに無理があるのだろう。それに、自分の中ではあくまでも年齢や経験を重ねて来たことで、気づくことも増え、真っ当な方向に近づいている(多分)、という感覚があるので、ついそう思ってしまうのかもしれない。ただ、こどもの頃の自分をそこまでハッキリ覚えていないのも本当のところ。
でも、この言葉は好き。すぐ分かった気になる自分への、良い戒めでもある。
"Les hommes n’ont plus le temps de rien connaître."
「人間たちはもう時間がなくて、何も知ることができないんだ」
王子さまが地球で出会うキツネの言葉。このキツネの台詞は名言が多い。実際に著者がキツネを飼っていたという話もどこかで読んだ。キツネの賢さを良く分かっていたから、このような役どころなのだろうか。
そしてキツネがある秘密を王子さまに教えるという。これはどこかで聞いたような、使い古された言葉のような気もして、最初はピンと来なかったのだけれど、人との関係の中で思うこともあり、自分はこの言葉の意味を本当には分かってなかったかも、と、改めて見直している。
"On ne voit bien qu’avec le cœur. L’essentiel est invisible pour les yeux."
「よく見えないんだ、心で見なくちゃ。一番大切なものは目に見えないんだよ」
引用:超音読レッスン「フランス語で読む星の王子さま」IBCパブリッシング
*CD付きで、ナチュラルスピードとゆっくりめの2段階で録音された朗読が聞け、音読の練習が出来ます。音読した文章は頭に残りやすいので、とても良いと思います。初中級くらいの方にオススメ。